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転生少女と転生少年・3

あえて分けたのは場面の変わり目を意識してました。
あの動画、解釈難しいのよ…
続き

 がむしゃらに走り続けて、ボクは足をゆっくりと止めた。
 どこにいるかもわからない。
 ただ、マーガレットの花に囲まれた場所としか。
 だけれど、はっきりわかったのは、雪奈ちゃんと出逢ってから今までが虚構の世界で、付き合っていたと思っていたことが、単なる恋人ごっこでしかなかったという事。
「どうして……こんなことに……」
 ぼそりと出てきた言葉が、いないはずの声と重なる。
 見なくても誰だかわかる。
 うずくまるように座る凛だ。
「さぁ、わからないね」
「さぁ、わからないよ」
 本当にどうしてこうなってしまったんだろう。
 ボクはこのまま、虚構のキミとの幸せに溺れるべきか?
 それとも、現実のキミの本当の幸せを願うべきか……
「「凛」の幸せはどうなるのか?」
「『凛久』の幸せはどうなるのか?」
 ボクと凛が同時につぶやく。
 そして凛が言ってきた。
「この世界の彼女を悲しませることになる」
「どうでもいいんじゃない? 夢幻と消える、この世界だもの」
 どうでもいい、だってここは消えてしまう虚無の世界だから。
「えっと……」
「こういうときは……」
「どうすればいいのかな……」
 ボクと凛が交互に口にする。
 この虚無(ゆめ)にすがっていたい、だけれど雪奈ちゃんの幸せを願うべきなのかと迷いが生じる。
 考えていても答えは出なくて、ボクも凛も何も言わない。
 それがとてもイライラする。

「「黙ってないで答えてよっ!!!」」

 同時に叫んで、残ったのは空しさだけだった。
 それもそうだ。
 だって、僕も凛ももとは一人の人間。
 ただ、女であったことにうそをついて男と演じているだけなんだ。
「もう……やめよう」
 ボクは考えることを放棄した。
 いくら考えても答えなんて出ない、もう前には進めない。
 そう思ったとき――

凛久くん、大好きだよ!

 ふっと、雪奈ちゃんの笑顔がボクの頭をよぎった。
 そして、凛の頭によぎったのを感じる。
 心の中が雪奈ちゃんの笑顔で満たされる。
 呼ばれるときの優しい声、元気にしてくれる笑顔。
 ボクが本当に守りたかったものはなんだ?
 ボクの望み通りに動く世界?
 ボクの言いなりになってくれる恋人?
 違うっ!
「凛、ボクはううん、ボク達は間違っていたのかもしれない」
 ボクは、初めて凛に向き合う。
 凛も立ち会があっていて、向き合うようにボクを見ていた。
「うん、こんな世界にいても、雪奈ちゃんは幸せになれないよね」
 涙を浮かべながらいう凛の言葉にボクはうなずく。
「この世界の雪奈ちゃんは、ボクの生み出した絵空事。今は幸せでも、このまま愛し続けていても、いつか、きっと後悔すると思う。だからボクは……」
 その先を言わなくても、凛は理解したというかのようにうなずいてくれた。
「「楽園(まやかし)はもういらない!!」」
 ボクと凛が同時に叫んだ時、世界が割れるような音がした。
 さぁ、別れの時だ。


「ね、ねぇ、凛久君……? どこいくの?」
 ボクは雪奈ちゃんを見つけて、その手を取って歩いている。
 行先は告げないで歩いているから、雪奈ちゃんからすればどこに連れて行かれるのか不安だろう。
 でも、これでいいんだ。
 これも、別れのための準備なのだから。
 黙ったまま歩いて約10分、ボク達は目的地に着いた。
 そこは、なんてことない踏切。
「雪奈ちゃんはここにいて、絶対動いちゃだめだよ」
 雪奈ちゃんの手を離し、顔を見ずにボクは踏切を越えた反対側へと渡る。
 カンカンと警告音が響きだした。
「雪奈ちゃん。ごめん、別れよう」
 別れの言葉が警告音にかき消されないように声を張りあげ、彼女に伝える。
「なんで? 私、何か嫌われるようなことした!?」
 雪奈ちゃんの、哀しそうな声が聞こえた。

 さようなら、ボクの愛するヒト。
 でも、ゆがんだ世界を戻すため、これが永遠の別れになるわけじゃないだ。
 さようなら、『凛久』だった偽りの自分。
 ちょっと現実を直視にいくだけだ。
 さようなら、偽りだった『凛久(ボク)』が愛したセカイ。
 未練がないわけじゃない、けど……
 
 警告音が響く中、ユメとウツツを、ボク達と雪奈ちゃんのいる世界を分かつ双つ棒が降りてゆく。
 ボクを呼ぶ声が、警告音に溶けて何を叫んでくれているのかわからない。
 最後に顔だけでも、と思って振り返ると同時に容赦なく電車が遮るように走っていく。
 その電車はまるで、ボクが見ていた甘い虚構に振り下ろされた鎌のように思えた。
「ありがとう、雪奈ちゃん……さようなら」
 現実世界で暮らす、本当の彼女の幸せを願いながら、ボクは意識を手放した。


 長い、長い夢を見ていた気がする。
 目が覚めて、気が付いたときに私が見たのは、不安そうに私を見つめる雪奈ちゃんと白い天井だった。
「あ、れ……?」
「りん……ちゃん……りんちゃああああああああああああああああん」
「ふぇ!?」
 雪奈ちゃんが急に涙をこぼしながら抱きついてきて、私はものすごく驚いた。
 その近くには中瀬里玖がいて、相変わらず無愛想な顔をしてるけど、どことなく安心しているような雰囲気を感じた。
「よかったっよかったぁ……
「ゆ、雪奈ちゃん……くるしいよぉ……」
「雪奈……日向が苦しがってる」
 私から雪奈ちゃんを引きはがすように中瀬里玖が雪奈ちゃんを引っ張る。
 えぐえぐと泣いている雪奈ちゃんを見て、私はかなりの間眠っていたのか、意識を失っていたのだと予測でした。
「時期に両親と医者が来る。また落ち着いたら来ればいいだろう」
「でも、でもやっと起きて……」
「だからと言って目覚めたばかりの病人に抱きつくな。騒がせたな、悪い」
 そう言って中瀬里玖は、雪奈ちゃんをつかんだまま私に頭を下げてきた。
 一応、気を使ってくれているらしい。
 そんなことをしてるうちに白衣を着た男の人と看護婦さんが来て、そのあとに両親が駆け込んできた。
 いろんな検査をさせられて、全部が終わって落ち着いたころに聞いたのは、私が半年近く眠っていたという事。
 私の記憶では、自分の目の前に開いた真っ黒な穴に飛び込んだ、はずなんだけれど親の話ではドンッと音がして私の部屋に来たらうつぶせで倒れていた、らしい。
 あの時聞こえた声も、穴も、全部幻だったのかわからない。
 だけれど、あの時の、御影凛久として過ごした時間と決意は私の胸の中に残ってる。

『雪奈ちゃんの幸せを願う』

 学校に戻れるようになって、前みたいにべったりと一緒にいることをやめて、時々雪奈ちゃんのことを見てしまうけれど、この決意だけは忘れない。
 大事な雪奈ちゃんにとって良い友達でいられるように。
 誰かを思うって、こういうことだと思うから。
 だから、これが不幸だとも、絶望だとも思わない。
 今まで殺してやりたいくらい憎くて冷えていた思いが、大事な雪奈ちゃんとその恋人の幸せを願う思いに変わって、とても暖かく感じられるようになったから――

 マーガレットの花に、私の想いをのせて……

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