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家出少年と迷子少女

いつか書きたいと思った曲の1つ。
cosMo@暴走Pの2ndアルバム「星ノ少女ト幻奏楽土」より
「家出少年と迷子少女」
爽やか絶望系のタグがついてるので、オチは暗いです。
ハッピーエンドはありません。
あと里玖雪じゃないです。

続き

 ねぇ、どこに行ったの?
 ねぇ、どこへ消えてしまったの?
 キミのいない世界なんて、私は耐えられない……!


家出少年と迷子少女


「雪奈ちゃん。ごめん、別れよう」
 そう言ったのは私の大好きな彼、御影凛久(みかげりく)君。
 綺麗な山吹色のショートヘアーに透き通るような空色の瞳を持っていて、彼の笑った顔が大好き。
 そんな彼が今、線路を挟んだ向かい側で、私に背を向けて“別れよう”なんていう。
 嫌われるようなことは何1つしてない……と思ってる。
「どうして? 私、何か嫌になることした?!」
 踏切の警告音が響いて、私の声が彼に届いているかわからない。
 別れたくなんて、ないのに……!
「ねぇ、凛久君!!」
 そんな時、容赦なく電車が遮るように走っていく。
 電車が通り過ぎて、そこにいたはずの凛久君の姿がないことに気が付いた。


「凛久君!!……あれ?」
 叫びとともに目が覚めて、思わず首をかしげてしまった。
「なんで、あんな夢見たんだろう……」
 時間を見れば、いつも起きる時間だったのでそのまま起床。
 学校へ行く支度をしつつ、お弁当を3つ作る。
 1つは私の分、1つは仕事へ行く父の分、最後の1つは大好きな凛久君の分。
(おいしいって、言ってくれるかな……)
 彼の笑顔を思い浮かべながら3つのお弁当を作る。
 やがて父が起きてきて、登校時間になって。
 私は2つ分のお弁当を持って学校へと向かう。


 教室について、同じクラスの女の子たちが今日も騒いでいる。
 話題は1学年上の中瀬里玖先輩の話。
 凛久くんと同じ名前の人だけど、どうにもかっこいいとは思わない。
 無愛想だし、いつもちょっと怒ってるような顔してるし。
 そんなことを考えながら私は凛久君を待つ。
 だけど、ホームルームが始まる時間になっても彼は登校してこない。
(凛久君……どうしたんだろう……)
 それから、1時間目の授業が始まり、2時間目の授業が終わり、どれだけ待って彼は登校してこない。
 携帯を見ても、着信履歴やメールの受信もなくて、不安なになった私は思い切って3時間が始まる前に担任のもとへと向かった。
「あの、水卜先生」
「あら、矢島さん。どうしたの?」
 担任の水卜悠衣先生は次の授業で使うであろうプリントを整理していた。
 だけど、私には凛久君のほうが大事だ。
「あの、御影凛久君が来てないみたいで……なにか連絡きてませんか?」
「……ん? 誰?」
「だから。御影凛久君です。私と同じクラスの……」
 先生の反応が、なんか変だ。
 受け持ちの生徒のこと、よく知ってるはずなのに。
「あー。待って、矢島さん。あなたは私のクラスの生徒だけど、御影凛久なんて生徒はいないわ」
「え、だって、昨日までいたんですよ? どうして……」
「聞き覚えないのよ……ちょっと待って、今名簿で確かめるから……」
「っ、もういいです!」
「え、あ、ちょっと矢島さん!?」
 先生の態度に腹が立って、私はそのまま職員室を出てきてしまった。
 そしてその足で1学年上の幼馴染である弥悠のもとへ向かう。
 弥悠は風紀委員で、全生徒の名前を憶えてるって言ってたから、きっとわかるかも知れない。
 そう思ったけど――
「え、御影凛久? 誰それ」
「な、なに言ってるの弥悠。前に紹介したじゃない、私の彼氏だよ!」
「か、彼氏って……あんた、中瀬里玖と付き合ってるはずじゃ」
「違うよ! 覚えてないの? 山吹色の髪でちょっとはにかんだ笑顔で……」
「あー……ごめん、覚えてないわ」
「っ! 弥悠のばか!!」
「ちょ、ちょっと雪奈!?」
 弥悠の言葉に涙が出そうになった。
 凛久君のことは数週間前に紹介して話してたのに。
 どうして凛久君のこと、覚えてないの?
 たしかにちょっと変なことを言ったり、言葉が女の子みたいなことはあったけど、確かに昨日までいたのに!!
 凛久君を探そうと思い立って、私は授業をさぼって街に出た。
 凛久君と一緒にお茶したカフェや一緒に見た映画館、一緒に買い物したお店。
 デートして寄った場所、休憩に立ち寄った公園を、全部全部見て回ったけど、どこにも凛久君の姿はなくて。
普段は通らない高架橋の下とか、街の隅々まで凛久君の姿を探し続ける。
「どこにいったの……? 嫌いになっちゃうよ……?」
 ぽつんとつぶやいてみるけど、それに返事はなくて。
 まるで迷子になってしまった気分だ。
(君が手を引いてくれなきゃ、私、歩けないよ……?)


 ふらふらとさ迷い歩いて、気づけば知らない街を歩いていた。
 街のいたるところに落書きがあって、なんだか私の知る街とは全然違うみたい。
「ここなら、いるかな」
 凛久君を探すために街の中をふらふら歩く。
 もし、会えたらどうしようかな。
 “心配したんだよ、ばか”って言って、頬を叩いてやろうかな。
 そして、抱きしめて許してあげよう。
 きっと、凛久君なりの理由があるのかもしれないから。
 けど、どんどん日が落ちて夕方になって、ついには夜になってしまった。
 どこを探しても凛久君の姿はなくて、不安になる。
「凛久君は、家出したんだよね……? そうなんだよね?」
 そう口に出して、飲み込む。
 どうしていなくなったのか、わからなくて。
 本当は違う結末が待ってるんじゃないかなんて、頭の片隅で思ってしまった。
「あっ…!」
 考えながら歩いていたせいか、開いていたマンホールに気づかず私は落ちてしまった。
 幸いけがを負うことはなかったけど、落ちた先はどうしてか、さっきまで歩いていた街にそっくりだった。
「……あれ、今落ちたんだと思ったけだけな……?」
 落ちた気がしたのが気のせいだったのか、わからないので私はまた凛久君探しを再開する。
 そんな時、
「こんばんは、お嬢さん」
「?!」
 急に声をかけられ、振り返ればそこは知らない20代後半の男が立っていた。
「こんな遅い時間に一人でふらふらと、一体に何をしているのかな?」
 話しかけてきたその人から、私は嫌な感じを受けた。
 思い出してはいけない、何かを思い出してしまいそうな気がしたから。
「さ、探しもを、しているだけです……忘れてしまった、大切ななにかを……」
「探し物? 私にはお嬢さんのほうが探されるべき迷子にしか見えないが?」
 男の言葉を聞いて、頭の中に声が響く。
 “知らない、知らないんだ!!”と。
「あ……あぁぁ!?」
 響いた声に恐怖を感じて、私は駆け出そうとした。
 けれど、男に呼び止められて耳を疑った。
「待ちたまえ、お嬢さんの探すものは、そんなところにはないよ」
「……え?」
「私は真実を知っている。さぁ、こちらにおいでなさい」
 真実、そう男が言った。
 あの人は、凛久君を知っている……?
「キミの見るべき真実は、ここにある」
 そう言って連れてこられたのは、街にある踏切の前。
 その瞬間、あの夢を思い出す。
 凛久君に別れを告げられた夢を。
「あ……あぁぁぁ……!」
 そこで、私は気を失ってしまった。


 気が付いたとき、私は学校の目の前に立っていた。
 時間的にはお昼ぐらいだろうか。
 でも、もうこんなところに用事はない。
 彼を探していた時と同じように、私は街の中をふらふらと歩く。
 それは目的地へ向かう散歩に近い。
 その間で、探していた記憶の欠片たちを拾いながら。
(あの時、なんて言ってたっけ)
 キミと話している時を思い出す。

『あの時計台の上でキスすると永遠に結ばれるんだって』
『へぇ。雪奈ちゃんが好きそうな話題だね』
『今度一緒に行こう?』
『仰せのままに、お姫様』

『踏切ってさ、世界を分断してるみたいに見えるよね』
『なんだそれ』
『だって、そうみえない?』

(時計台、結局行かなかったな。それに、踏切の話をしたから、キミはいなくなったの……?)
 とぼとぼ歩きながら拾い集めた記憶をつなげていく。
 そしてたどり着いた記憶の先は、もうキミがいないという事実。
(キミがいないなら、私がキミのもとへ行けばいい)
 迷子のように捜して歩いたのにみつからない。
 当たり前だよね、もうどこにもいなかったんだから。
 少しずつ、目的地が見えてくる。
 じわりじわりと実感する、キミがいないという事実。
 受け入れたつもりでも、やっぱり受け入れきれていないんだ、と。
 やがてついた場所は、君を最後に見た踏切。
 線路の中に入って座り込む。
 もう後戻りはできないよ、誰かが囁いた気がした。
「いいの、これは私(かれ)が決めたことなんだ」
 カンカンと警告音が鳴り、踏切が世界を切り離すように降りてくる。
 2つの赤い点滅に照らされて、不思議と涙が出てきた。
 きっと、それは安堵からかもしれない。
「こんな世界はいらない」
「キミのいない世界のほうが、間違いなんだ」
 つぶやいたとき、鉄塊が私を――


カンカンカタカタ 日常に ポツンと 特異点 爽やかに 絶望と 諦観と

end

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