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【LW】白い異界03

 白い異界は延々と続いていた。
続き
 出てくる敵はいわゆる雑魚ばかりで、里玖がたやすく一掃してしまう。
 記憶を映し出す空間が吐き出すのは二人の住む“エレメンタル”に住まう魔物ばかりで、魔物たちは二人を襲ってくる。
「しかし、夢ノ国にも私たちの世界に魔物が出るんだね」
「……いや、この空間だからだろう」
「へ?」
「記憶を映し出す場所であれば、俺たちの記憶から反映されているのではないか?」
 後ろから迫るウルフを瞬殺し、里玖は軽く剣を振って鞘へと納める。
「そういえば雪奈。魔法はどうなんだ?」
「魔法? 使えたけど?」
 突然に話を振られ、雪奈は少し考えてから答える。
 この空間に入ってから、雪奈が魔法を使う場面を里玖は見た記憶がなかったからだ。
「お前、ここに入ってからまだ使ってないだろ? いつ使ったんだ?」
「えっと……あ、入る前だった。召喚されて、武器を手に入れるために地下通路を通るって聞いて、その途中で魔物が出たから魔法で退治したのよ」
「武器、持ってなかったのか」
「うん。オーブっていう物で具現化させてるんだって」
 “これだよー”と杖を見せる。
 しかし、里玖から見ればいつも雪奈が使っている杖にしか見えなかった。
「……どう違うんだ?」
「うーん? あまり違和感とかはないんだよねー」
 首を傾げながら雪奈は告げる。
 そのまま、雪奈は杖を構えると口を開く。
「癒しの光よ 降り注げ キュア」
 杖からキラキラと光が降り注ぐ。
 暖かな光は里玖の身体に出来た細かな傷を癒した。
「……どうゆうつもりだ」
「どうゆうも、回復よ?」
「怪我をするほど戦っていない」
「でも戦ってくれたでしょ?」
「だが」
「魔法が使えるか、試してみたのよ」
 喰ってかかりそうな里玖に雪奈は言う。
 さきほど使えるかと言われたことが気になったらしい。
「試すなら回復も兼ねてって思ってさ」
「……それで、どうなんだ」
「う~ん、なんかいつもより疲れるというか、気だるい感じがするというか?」
 感想を求められ、雪奈は首を左右に傾けながら伝える。
 そんな様子の雪奈を見て、里玖は一言。
「お前は魔法を使うな」
「えぇ!? なんでよ!!」
「回復魔法でいつもより気だるさを感じるなら無い方がましだ」
「だからって……」
「いいから使うな」
「なによ!」
 一方的な里玖の言い方に雪奈は頬を膨らませて怒りを露わにする。
 とは言え、里玖からすればこの怒り方もかわいく思えるものなので適当に相槌を返していた。
「もう! いいもん、勝手に使うから。凍てよアイス!」
 ぷりぷりと怒りながら雪奈は杖を構え、呪文を唱えると先端から氷の結晶が生まれてぼとりと落ちる。
「雪奈!」
「あとは……燃えよ、ファイア!」
 杖の先端から小さな火の玉が生まれ、まっすぐ飛んでいく。
 しかし、ある一定の場所で火の玉は下に向かって直角に曲がり、ボシュンと音を立てて消えてしまった。
「あ……」
「お前は……人の話を聞けっ」
 そう言って里玖は雪奈の耳を引っ張る。
 そこまで強く引っ張っているわけではないが、雪奈は大げさに“痛い”と言う。
「もう! 引っ張ることないじゃん!」
「こうでもしなきゃお前は聞かないだろ! まったく」
 里玖は叱るように言うと小さくため息をつきながら耳を離した。
 雪奈は頬を大きく膨らませ、むくれた表情をしている。
「だって……」
「なんだ」
「私だって、里玖の力になりたいよ……いつも守られてばかりは嫌だもの……」
「……だが、俺は雪奈に傷ついてほしくない。それが魔力ならなおさらだ」
 うつむく雪奈に里玖は言う。
 どちらも互いを大事にしたいと思っての言葉だったようだ。
「お前は以前に魔力を失いかけただろう。あの時のお前はどうだった。ずっと眠り続けていたんだぞ?」
「うぅ……確かに、あの記憶のエリアで寝てた時のは見て思い出したけど……」
「あの時は2週間近くも眠ってたんだ。もうあんな思いをするのは勘弁だ」
「……ごめんなさい」
 しゅん…と頭を垂れて雪奈はうなだれる。
 そんな雪奈の頭を里玖はポンポンと叩いた。
「……あ」
「ん?」
「魔法が使えるなら、みんなも呼び出せるかな?」
「……おまえ、人の話を聞いてたか?」
 閃いたかのように雪奈が言うと里玖は呆れた表情をした。
「だって、呼べたら帰る手立てがわかるかもよ?」
「……ならばしかないか」
 “やった!”と雪奈は喜ぶと里玖から少し距離を取り、杖を床につけた。
「……誰呼ぼう?」
「……誰でもいいだろ」
「う~ん……それじゃ……」
 雪奈は杖を両手で握ると目を閉じた。
「風を司る者よ 我が声を聴け 我が声に応えよ」
 雪奈を中心に魔方陣が広がる。
 魔方陣の色は緑色で、雪奈を纏うように風が吹き出した。
「我が前に姿を現せ シルフ」
 張りあがる声に応えるように風が強く吹き上げる。
 風は雪奈から離れ、小さな竜巻を作り出すとその中から小人が姿を現した。
≪雪さま!≫
「シルフ!」
 現れたのは翡翠の髪を持つ風の精霊・シルフだった。
≪雪さま、居なくなって心配したんだよー!≫
「ごめんねシルフ。異世界に飛ばされちゃって……オリジン様はこのこと……」
≪知ってるけど、帰れる方法を探してます。中々繋がる路が無いみたいで……≫
「そう……」
≪でもこうして呼び出してくれたから、すぐに帰れます!≫
 喜んだり悲しんだりとくるくると表情を変えるシルフを見て、雪奈は“ありがとう”と言う。
≪お迎えに行ける路が見つかったらまた現れます。それまでは≫
「えぇ、ありがとう」
≪それでは!≫
 シュルリとシルフは身を風に変え、そのまま姿を消した。
 雪奈はふるふると小刻みに震えている。
「雪奈……」
「……だせた」
「……あぁ」
「呼び出せたよ!」
「よかったな」
「うん!!」
 全力で喜ぶ雪奈に里玖は穏やかな表情で頷いてみせる。
 嬉しさのあまりに雪奈は里玖に抱きついた。
「よかった、よかったよぉ」
「あぁ」
 若干、声が震えていることに里玖は気づき、雪奈の頭を撫でて落ち着かせる。
「オリジンも事態には気づいているようだ。ここが終わればすぐに帰れるだろう」
「それはだめだよ!」
「雪奈、無理に付き合うことはないんだ。俺たちの世界ではないんだから」
「でも、助けてって言ってる人たちを放ってはおけないよ……」
 うずめていた顔をパッとあげ、雪奈は言う。
 今いる場所の原因が解明したら戻ろうという里玖に対し、雪奈は最後までやりとげようというのだ。
 里玖からすれば世界のことはどうでもいいが、雪奈はそうではなかったらしい。
 そんな時、突然辺りは闇へと切り替わる。
 里玖はとっさに雪奈を護る体制に切り替えるが、すぐに空間は明るくなった。
 目の前には二人にとって懐かしい女性の姿が。

―“雪ちゃん、里玖”―

「リイネ……さん……」

―“元気にしていた? アンミちゃんやジンやルナは元気にしてるわ”―

 ゆるふわに束ねられた茶髪の女性は二人にとって母親のような存在であるとても大切な人物だった。
 その人は柔らかな微笑みを浮かべている。

―“アンミちゃん、最近はいろんなことを覚えてきてね。お手伝いをしてくれるようになったのよ”―

 女性から発される言葉に雪奈はあることを思い出す。
「これ、リイネさんからの手紙だ……」
「手紙?」
「うん。ちょっと前に近況報告と遊びに来てって……」

―“アンミちゃんやルナが寂しがってるの。時間ができた時でいいから、顔を見せに来てくれると嬉しいわ”―

「うん。この前来た手紙だ。近々行きますって、お返事書いたの」
「そうか」
 瞳を潤ませる雪奈の頭を里玖はぽんぽんと撫でる。
「遊びに行くの、遅くなっちゃうな」
「あの人なら行くだけで喜んでくれるさ。今回のことを土産話にすればいい」
「そうだね」
 こぼれた涙を拭いながら雪奈はうなずく。
 里玖も頭を撫で続けていて、穏やかな表情だった
「貴方達なら大丈夫」
「!」
「貴方達なら乗り越えられるわ」
 そう言ったのは二人の前に立つ、優しい笑顔を浮かべた女性だった。
 先ほどまでの言葉はすべて自分の記憶のものだったはず、と少女は困惑する。
 女性は、ただただ笑みを浮かべていた。
 放たれた言葉は手紙に書かれていないものだったのだから。
「待ってるから、無事に帰ってきてね」
 そう言って、女性の姿が消えてしまった。
 空間は一度暗転していつもの部屋に変わっている。
「な、なんだったの……?」
「今の言葉は手紙に書かれていたんじゃないのか?」
「書かれてないよ?! だから、びっくりしたの……」
 少女の驚きように青年は問う。
 その答えが否だとわかり、わずかながらに驚いた表情をした。
「……でも、リイネさんだったらなんでもありな気がする……」
「……それは言えるかもしれんな」
 しばし驚きで固まっていた二人だが、謎の納得感を得て再び歩き出すのだった。


***
魔法と召喚術の検証でした。
おそらくいつもと場所が違うから感覚も違うのかと思います。
慣れてしまえばさじ加減でいつも通りに使えるんじゃないですかね。(適当)

ちなみに、リイネさんなら~は相方とよく話してます。
あの人はなんでもありだと思うんです。
だってリイネさんだもの。

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