今年最後の小話。
また来年も書いていきたいです。
あと1時間もすれば年が変わる日、大みそか。
里玖と雪奈は暗い夜道の中、近所にあるお寺に来ていた。
年を越す除夜の鐘をきくためと初詣をするためである。
この時、弥悠や隼人にも声をかけたのだが、弥悠は風紀の仕事(ボランティア)が入ってしまったためパスされ、隼人は弥悠と共に仕事をすると言ってついて行ったらしい。
「風紀も大変だな……」
「……たぶん、俺のせいだな」
「あぁ……FC対策……」
イベントごとにファンクラブ対策で駆り出させる風紀委員に、心の中でお礼をいいつつお寺まで歩いていく二人。
里玖は黒のダウンコートにジーパン、首元にはマフラーととてもラフな姿だが、雪奈は赤に蝶の模様が入った着物、首元には寒くないようもこもこのファーを巻き、手にはシルクの手袋をつけている。
ちなみに、雪奈の衣装はすべて梨依音・ミカエリスが揃え着付けまで行ってもらっている。
「雪奈、寒くないか?」
「うん、大丈夫だよ。中にヒートテック着てるし、カイロもつけてるし。寒くないように梨依音さんがいろいろしてくれたんだ」
楽しそうに話す雪奈を見て里玖は微笑みを見せる。
周りには二人と同じように参拝に来た客でにぎわっていたため、迷子にならないようにと手をつなぎながらゆっくりと進んでいた。
じゃりじゃりと砂利が音を鳴らしている。
「でも、どうして来てくれたの? 人ごみ苦手だって言ってたのに」
「それは、雪奈が行きたいと言ったからに決まっているだろう」
何を言っているんだ?という表情をしながら放たれた里玖の言葉に、雪奈は眼を丸くした。
「どうした?」
「いや……断られるの覚悟だったから……」
「雪奈の頼みを断るわけがないだろう」
淡と帰ってきた答えに雪奈は驚くと、ぷっと噴出して笑い出す。
「な、なぜ笑う……」
「な、なんでもないっ」
肩をぷるぷると震わせながら笑いをこらえる雪奈に里玖は怪訝な視線を送る。
「うふふっ嬉しいな~」
上機嫌になる雪奈。
里玖はよくわらないと言いたげな表情をしたとき、
ごーん ごーん
「あ、もうそんな時間なんだ」
鐘の音が響き渡りだす。
ゆっくりと108まで鳴らされる鐘の音を聞きながら、二人はギュッと強く手を握り合った。
「里玖、今年もよろしくね!」
「あぁ、こちらこそ」
年の初めに送られる言葉は短いキスと共に。
互いの無病息災と幸せを願いながら。