中央都市よりかなり離れた場所にある魔法学園。
そこでは魔法使いや騎士になるべく勉学に励む学生たちで賑わっている。
全寮制で難しい授業や厳しい訓練を受ける学生たちにも楽しみがある。
その1つ、ハロウィンパーティが今日行われる。
「ユキちゃーん! 着れたかしら?」
「はい! これ、すっごく可愛いです!」
魔法使い科5年生の雪奈は食堂の女将・リイネのもとにいた。
彼女以外にもたくさんの女子生徒がこの場にいる。
リイネは旦那と一緒に食堂を切り盛りする傍ら、服飾を趣味としておりそのクオリティはお金を出してでも買いたいほどに高い。
「リイネさーん!」
「はいはーい!」
現在、食堂内はハロウィンパーティのために仮装する女子生徒であふれている。
そして、衣装を決めた女子生徒は思い思いの格好をしてパーティへ向かうのだ。
ちなみに、今の雪奈は青のエプロンドレスに青のリボンを髪につけている。
「いってらっしゃーい。転ばないようにねー。あら、リクじゃない」
リイネが出ていく女子生徒を見送っていると、里玖が近くを通った。
どうやら自主訓練の帰りらしく、訓練着を着ていた。
「あ、どうも……」
「あらあら、あなたは着替えないの? みんな着替えてるのに」
「いや、俺は出るつもりないので……」
「まぁ、ユキちゃん出るって楽しみにしていたわよ? 張り切って着替えているし」
話しかけてくるリイネから里玖は顔を背けて言う。
その時、仮装をした雪奈がリイネのところにきた。
「リイ……あ、里玖! あれ、着替えないの?」
エプロンドレスをまとった雪奈が里玖に気づき、声をかける。
里玖は照れ隠しか、とっさに視線を外した。
「お、俺は出ないからな……」
「えー! 一緒に出ようと思ったのに!」
シュンとうなだれる雪奈に、里玖は少し狼狽える。
「あ、リイネさん。あの衣装の中に里玖でも着れるサイズありますか?」
「たぶんあると思うけど……どうするの?」
「今着せます」
「!?!?」
「まぁv ちょっと探してくるわね♪」
雪奈の提案を聞いて里玖は軽くショックを受け、リイネはうきうきと食堂の仲へ入っていく。
「お、俺は着ないぞ! というか行かないぞ!?」
「せっかくのパーティだよ? 行かなきゃもったいないよ!」
「俺は行かん!」
「どうしてよ!」
「どうしてもだ!!」
パーティに行く行かないで声を荒げ始める雪奈と里玖。
ちなみに、パーティは自由参加である。
「一緒に来てよ!」
「行くなら一人で行け!!」
里玖の強めの一言に、雪奈は泣き出しそうな表情をすると、
「り、里玖のばかああああああああああああああああ!!!」
と言って、その場から走り去っていってしまった。
「ん?」
ちょうど雪奈の横を入れ替わるかのように、ヴァンパイア(黒のベストとパンツにマントを羽織った姿)に仮装した弥悠が通り、そして首をかしげる。
「今のは……雪奈?」
「ふんっ」
「あら、里玖。今雪奈が走って行ったけど、どうしたの?」
「なんでもない」
「あら、そっけない。喧嘩したの?」
「……あいつが悪いんだ」
顔を背けていう里玖に、弥悠はまた首をかしげた。
「本当にどうしたのよ」
「……ハロウィンパーティに行かんというのに、俺にドレスを着せて行かせようとするんだ」
「……あぁ」
「ドレスなんて誰に言ってないでしょ?」
弥悠は里玖の言った理由に若干納得していると、リイネが衣装を持って戻ってきた。
「はい。ヴァンパイアの衣装。白のシャツに黒のベストとパンツ、マントを羽織るだけの簡単なものよ。あら、ミユウちゃんこんにちは。ヴァンパイアレディの格好が素敵ねv」
「ありがとうございます。リイネさん」
「ほら、着替えてユキちゃんを追いかけなさい。あの子、楽しみにしていたのよ?」
「俺は……」
「ほら、行く行く」
里玖はリイネに衣装を押し付けられ、そのまま背中を押されると、仕方ないというかのように雪奈が走って行った方向へと走り出す。
「でも、どうしてドレスを着させられると思ったのかしら?」
「たぶん、魔騎士科のラリアート兄妹の兄と騎士科のロウ兄弟が女装してたのを雪奈が見たからだと思います。前に話を聞いたので」
「まぁ、面白いことをする子たちね」
若干げんなりしながら説明する弥悠にリイネはクスクスと笑う。
「でも、言い合うのは珍しかったな……あっさり心開いたくせに」
「まだ慣れない、って感じね。今までも参加したことないでしょ? リクは」
「え、えぇ。今までよりは多少、社交的になって……って、なんでわかるんですか?」
「一応、ここの生徒たちのことはある程度把握してるつもりよ?」
「!?」
「それよりも、言うことがあるんじゃなくて?」
「へ? あ、トリックオアトリート」
「はい、よく言えました。中で渡すわね」
そう言って、リイネは弥悠を引き連れて食堂へと入ってった。
その日の午後、弥悠は銀髪のヴァンパイアと茶髪のアリスを見かけるのだった。
おわり
***
うん、gdgdになった。
結局は痴話げんかして、仲直りです。
魔学の里玖は本当に雪奈だけ心を開いてますが、それでもなめな時もある面倒な男になりました。