里玖のカゲロウを書いたら雪奈のカゲロウも書きたくなりました。
しかしよく考えたら“カゲロウ”が出てない事態に気づいた。
いや、解釈とかないからいいか。
それは、目も眩むようななんてことない夏の日のお話。
ズイデウロゲカ
高校も夏休みに入り、私は里玖と暑い日差しの中でエンジェルホーム近くの公園で話をしてからお店へ向かう、というのが最近の決まりになっていた。
お互いに家からお店までの距離が近いから、少しでも長く居たくて、近くの公園で合流してから行くようになっていた。
今日は8月15日、時間は午後12時半ぐらいを回っていたと思う。
「雪奈」
「里玖!」
私はブランコに乗り、近くでも見つけた黒い猫を抱えながらあとから来た彼を見る。
ブランコに乗って話をするのが最近の定番で、里玖はいつものように私の隣の椅子に腰かけた。
「どうしたんだ、それ」
「んー? 近くにいたから抱っこしてみた。かわいいでしょ?」
ちょっとからかってみたくて、“飼っちゃおうかな~”って言ってみる。
あ、悔しそうな顔してる。
「しっかし暑いよねー。こんな夏は嫌だな……」
「涼しいところに行くか」
「梨依音さんのところね! せっかくだからジンも……」
私が立ち上がると、抱きかかえていた黒猫が腕から逃げ出して歩道のほうへと走っていく。
「あ、待って」
後を追いかけると、私のあとを里玖がついてくる。
歩行者用の信号が赤に変わる。
横断歩道に差し掛かかって、里玖の声と後ろへと押される感覚があった。
「っ!! 行くなっ!!」
「えっ? きゃっ!?」
強制的に後ろへと引っ張られ、入れ替わるように里玖が横断歩道へと躍り出て、それと同時に走ってきたトラックが彼に衝突した。
あまりにもとっさの出来事で、簡単に飛ばされて地にたたきつけられる様を見ているしかできなくて、声すら出ない。
叩きつけられた里玖から赤いものが流れ出す。
それが血だとわかったのは、漂う鉄の匂い。
「っ、里玖! 里玖!!」
はっとして、彼のそばに駆け寄り体を抱き起こして、名前を呼び続ける。
けれども応えなくて、どうすればいいのかわからない。
「い……いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「……っ!」
胸苦しさに私は眼を覚ました。
泣いていたのか、目から涙が伝っていて、ゆっくりと体を起こしてみる。
部屋の中は暗く、携帯で時間を見れば8月14日から日付が変わったばかりの時間だった。
(12時すぎ……いやな、夢だった……)
目覚める前に見た夢が脳裏にこびりついて離れない。
あんな夢、みたくもないのに。
(里玖が、里玖が死ぬ夢なんて……)
ジージーと外からセミの声がする。
夜中は鳴かないって思ってたけど、その声がやけに耳について離れなかった。
やがて時間は過ぎて、8月15日の午後12時半ごろ、いつものように公園で待ち合わせている里玖と合流する。
公園に入る前に見つけた黒猫を膝に置いて、撫でながら彼を待っていた。
「雪奈」
「里玖!」
いつものように隣に座る彼。
ふっと、真夜中に見た夢を思い出した。
「雪奈、どうした?」
「……ん? なに?」
「今、怖い顔をしていたぞ」
「そう? なんでもないよ?」
思い出した内容のせいなのか、どうにも怖い顔をしてみたい。
首をかしげる彼に、私は笑顔で“なんでもないよ”と言った。
「しっかし暑いよねー。こんな夏は嫌だな……」
「涼しいところに行くか」
「梨依音さんのところね! せっかくだからジンも……」
私が立ち上がると、抱きかかえていた黒猫が腕から逃げ出して歩道のほうへと走っていく。
その光景が、あの夢と重なる。
「? 追いかけなくていいのか?」
また首をかしげる彼。
「う、うん。もしかしたら近所で飼われてるかもしれないし、つれてったらお父さんに怒られるかも」
「? まぁ、親父さんなら“返してこい”って言いそうだもんな」
「うんうん。あ、今日はこっちから行かない?」
「あぁ」
不思議がられたけど、これで大丈夫かな。
いつも使う交差点をさけて、路地へと向かう。
梨依音さんの店に行く途中、建設現場のそばを通った。
その時、周りにいた人々は上を見上げて口を開いていた。
「雪奈、あぶない!!」
里玖の声とともに前に突き飛ばされる。
振り返れば、鉄柱が彼の体を突き刺していた。
「きゃあああああああああああああああ!!」
「きゅ、救急車を呼べ!! 早く!!」
周りの人々の悲鳴や叫び声が辺りに響き渡る。
私は今起きた出来事が理解できなくて、呆然とするばかりで。
「よか……た……」
そう言った里玖の顔は、どうしてか笑顔に見えて、すべてが夢であってほしいと願う。
夢じゃないよ
「!?」
どこからか声が聞こえた気がした。
頭を振り、里玖を見る。
現実は変わらず鉄柱が彼の体を突き刺していて、おびただしい量の血がじわじわと広がるように流れ出している。
「里玖……? ウソでしょ、里玖……?」
力が抜け、座り込んで彼の体を揺さぶるけど、反応はなくて。
彼に触れた手は紅く染まって、どうしていいかわらかない。
「いやぁ……いやあああああああああああああああああああああああああああああああ」
「っ!?」
胸苦しさに目が覚める。
涙があふれて、のどが詰まったように苦しい。
部屋の中は暗くて、時間を確認すれば8月14日から日付が変わったばかり。
既視感に思わず、背筋がぞっとしてしまう。
(また、14日……!? また、里玖が死んじゃう!?)
夢のはずなのに、夢だったはずなのに。
3回目の15日が来ると思うと、怖くて仕方ない。
私は里玖にメールを打つ。
どうすれば彼を救えるのかわからないけど、絶対に死なせない。