書きたかったんだよバレンタイン話!
ものっそ遅刻だよ!
そしてこれからホワイトデー話書くとかね!
あほだよね!
2月14日、バレンタインデーといえば男たちがそわそわしていたり、女たちが渡せるだろうかとおたおたする日。
県立王華高等学校に在学する3年の中瀬里玖はとりわけ、女子たちからたくさんのチョコをもらえる人物だった。
しかし、彼は特定の人間にしか心を開かず、甘いものが苦手であるために1年2年で大量のチョコを渡され、思わず学校から逃げ出したことがある。(机の中、個人ロッカー、下駄箱など里玖が使用している場所に大量に入っていたことがある)
だか現在は3年生、時期的に自由登校のためこの日はバイト先でもある喫茶エンジェルホームに向かうために準備をしており、安心していた時のこと。
ピーンポーン
インターフォンがあり、出てみれば宅配人がそこそこ大き目(PS3が2台はいるほど)の段ボールを持っていた。
宅配物に心当たりはないものの、自分宛ということで受け取るために判を押す。
「それにしてもすごいですね~」
「…なにがだ」
「いや、この廊下にたくさん紙袋が置いてあるんですよ。いやーモテる人がうらやましいー」
“ありがとうございましたー”と配達人はさらりと言って去っていく。
里玖は眼を瞬かせて、廊下を見る。
そこにあったのは確かに紙袋。
しかも5袋ありそれぞれ目いっぱい詰め込まれている。
一番手前の紙袋を見てみれな、“中瀬里玖FCより”と書かれた文字。
里玖の顔が青ざめる。
配達された箱の差出人を見ればここにも“中瀬里玖FC”の文字。
里玖は思わず段ボールを投げ落とした。
しばしそのまま固まって十数秒後、里玖はごみ袋を取り出してまずは外にあった紙袋たちを回収、中身をごみ袋に入れる。
次は段ボールの中身をすべて取り出して、これまたごみ袋の中へ。
透明なごみ袋の中にはきれいにラッピングされたものがごろごろとある。
それが数袋できると、里玖はそれらを持ってごみ捨て場に行き、投げ捨てた。
(こんなもの、食べれるか)
そう思いながら里玖は準備を済ませてエンジェルホームへと向かうことにした。
そんな頃、里玖と同じ高校に通う矢島雪奈はそわそわしながらしきりに時計を見ていた。
テスト期間も無事に終わり、家庭科室で一人お菓子作りに没頭していた。
理由は友人や後輩たちに渡そうと考えてたバレンタインクッキーを作るため。
いつもは前もって作っておくのだが、後輩の時乃姉妹がとても個性的でこの日のためにと何度かこの教室を借りており、それを見守ることに徹していたのだ。(いつか怪我してしまうのではないか、壊してしまうのではないかと不安だったらしい)
「どうしよう……里玖の分まで間に合わない……約束の時間までもうあまりないのに……」
どうにか配る分は焼き上げて、ラッピングまで済ませた雪奈。
しかし、本命ができていないと焦りを見せる。
恋人である里玖は甘いのが苦手だと本人から聞いていたため、プレゼントとしてお菓子を渡すときは必ず甘くないものを渡すようにしていた。
しかし、今ある材料では甘いものしか作れない。
「……チョコチップクッキーぐらいなら……大丈夫かな……」
不安になりながら、雪奈はまた心を込めてタネを作り始めた。
そして約束の時間。
里玖は一足先にエンジェルホームについており、厨房のバイト(と言っても料理を習っている感覚)をしているため、使った厨房を片付けていた。
この時間はちょうど休憩の時間でもあるために客が入ることはない。
しかし、カランカランと来客を告げるベルが鳴る。
「こ、こんにちは……」
入ってきたのはちょっと息を切らせた雪奈だった。
「いらっしゃい雪奈ちゃん。待ってたわよ」
笑顔で迎える梨依音とジーベル。
里玖もあとから顔を出す。
「お、遅くなって、すみません…」
「大丈夫よ、さぁ席について。あなた、あれを出して」
梨依音はさぁさぁと雪奈をカウンターへ。
タイミングよく出された紅茶とデザートの皿。
それはバレンタインということで作られた、温められたフォンダンショコラだった。
「これは私たちから。ストレートの紅茶とよく合うわよ」
「里玖にはミートパイだ。これならいけるだろう?」
夫婦から出されたそれぞれへのバレンタインプレゼント。
雪奈だけでなく、自分にもと言われて里玖は驚いていた。
「お、俺にも、ですか?」
「あぁ。いつもいつもありがとうな」
“大した給料も払えないからな”とジーベルは言いながら笑う。
それに対し、里玖はどこか照れ臭そうだった。
「あ、ありがとうございます」
「そうだ。これ」
雪奈が鞄から取り出したのは手作りのチョコチップクッキー。
「数少ないし、梨依音さんたちには及ばないですが、私からハッピーバレンタインです」
「あら、ありがとう」
「ありがとう雪奈ちゃん」
雪奈の手作りがもらえたと喜ぶ梨依音。
よかったなというようなまなざしでジーベルは自分の妻を見ている。
「それと……ごめんね、里玖」
「ん? なにがだ?」
「その……本当は頑張って作ろうと思ったんだけど、これしかできなくて……」
梨依音の時とは違い、出すことをためらう雪奈。
やっと出てきたと思えば、それもチョコチップクッキーだった。
「甘くないようには作ったんだけど……その、ごめんね」
「謝るな。ありがとう、雪奈」
チョコチップクッキーを受け取り、しゅんとする雪奈を抱きしめる。
少し抱きしめた後、さっそく里玖はクッキーを食した。
雪奈の言うとおり甘さが抑えられており、甘いのが苦手な里玖でもちょっと甘さがほしいと思う。
要は好きな人の手作りならば甘かろうか辛かろうが苦手でも食べれてしまうものなのだ。「おいしいよ、雪奈」
「ほ、ほんと! よかった~」
「さぁさぁ、みんなでお茶にしましょう」
それぞれの心のこもったお菓子を囲んで。
ハッピーバレンタイン!