一時期流行ったあれです。
雪奈に着せたかったんです。
でもおかげで夫婦が頑張ってくれました。
「はい、プレゼント」
「ありがとう、弥悠!」
雪奈宅の玄関にて、弥悠は紙の包みを雪奈に渡していた。
エデンディアまで出かける用事があったらしく、少し遅めのクリスマスプレゼントを渡しに来たのだ。
「中身なんだろう?」
「開けてもいいけど、里玖の前だけにしなさいよ?」
「ん? どうゆう……」
「ゆきちゃん、お薬おねがいしていいかしら?」
ひょいと近所のおばちゃんが尋ねてきた。
雪奈はそちらの対応をするために包みを置いて、弥悠に再度ありがとうと告げる。
弥悠は弥悠で、笑顔で手を振って帰るのだった。
そして夜。
「そうだ。弥悠から貰ったやつ、なんだったんだろう?」
包みの存在を思い出し、がさがさと中身を取り出す。
出てきたのは白いタートルネックのセーターだった。
「お、セーターだ。暖かそうー」
試着してみようとした時、ひらりと紙が出てきた。
拾ってみれば弥悠の字で書かれている。
「ん? 『インナーなしが流行りみたいよ』ってどうゆうこと?」
書かれた意味がよくわらないと首を傾げつつ、雪奈は書かれた通りインナーを脱いでセーターを着てみる。
「え、なにこれ!?」
そのセーターは胸元がばっくりと開いた形の不思議なセーターだった。
そして思い出す。
「里玖の前ってこのことー!?」
「雪奈、どう……」
がちゃりと扉が開くと同時に里玖が入ってきた。
目と目が合うとともに見えてしまった胸元の開いたセーター。
里玖の顔がみるみる赤くなり、はっと気づいた雪奈が慌てて胸元を隠すも時すでに遅し。
「な、なんでもないの! なんでもないのよ!!」
「そ、それは……」
「弥悠にもらったとかそんなんじゃないから! もう着ないから! 着ないからね?!」
急いで脱ごうとする雪奈だが、はたっと手が止まる。
「い、今ご飯準備するから、ちょっと待っててね!」
“ケープケープ”と言いながらパタパタ走り、羽織るものを探して急いで被る。
ケープを被っても時々ちらりと見えてしまう胸元に里玖は生唾を呑み込んだ。
「みゆう……からか」
「え、うん……こんなのとは思ってなかったけど」
ケープを被った状態でエプロンをつけて支度を始める雪奈に里玖が問う。
「でも、あれだからあとで着替えるね」
「いや……そのままで構わない」
「え、でも……」
「大丈夫……大丈夫だ……」
少し困り顔をしながら、“とりあえずご飯作るね”と台所へ消えていく雪奈。
里玖は椅子に座りこむとしばらく考えていた。
時間は過ぎて宵のころ。
雪奈はケープ付きでまだあのセーターを着ていた。
そして里玖と向かい合うように正座でベッドの上に座っている。
「えっと……里玖? どうしたの?」
「いや……」
「この状態、いろんな意味でつらくない?」
「……」
「……前言った事、気にしてる?」
「ぅ……」
以前、弥悠にそそのかされた雪奈が里玖にモーションをかけることがあった。
が、その時に里玖の決心がつかずに終わってしまった為にそれを気にしていると思ったようだ。
「あの時も弥悠がきっかけだったけど……ムリしなくていいよ?」
「無理などは……」
「声震えてる。大丈夫、いくらでも待つよ」
「……俺は、俺はまともに愛情を受けられなかった。リイネさんたちは優しくしてくれるが、でも本当の親と子ではない。だから子を授かっても、おまえと同じように愛せるか……不安なんだ……」
うつむき、暗い声で里玖は言う。
不安に包まれた、あまり聞くことのない弱音だった。
「……大丈夫だよ」
雪奈は里玖の手を取り言う。
「本当とか、血のつながりとか必要ないんだよ。心で愛しいと思えることが、守りたいと思えることが大事なんだよ。そのためならいくら傷ついても私は構わない」
「そんな……!」
「だって、里玖だもん。大好きで、愛してる人なら嫌いになるわけないじゃない」
穏やかで、優しく微笑みながら雪奈は言う。
その笑顔が、里玖にとってまぶしく見えた。
まぶしくも暖かい、光のように。
「俺は……子を成してもいいのだろうか……」
「私は……ほしいな、里玖の子」
“産まれたらリイネさんたちに見せてあげたいの”と目を伏せていう。
「俺は……」
里玖の声は戸惑いを含ませていた。
本当に良いのだろうか、と。
そんな里玖に耐えかねたのか、雪奈は里玖の手を離すとケープを外した。
開かれた胸元が露わになる。
「ゆきっ!?」
そして再び里玖の手を取ると、雪奈は里玖の手ごと自分の胸に押し当てた。
突然の行動に、里玖は固まる。
「こう……していいの、里玖だけだよ? 里玖にしか、させたくないよ?」
それは雪奈にとっての最大の誘い文句。
少し恥ずかしそうに俯く雪奈を、残された片腕で里玖は抱き寄せた。
「その……すまん」
「あやまるのなし! 恥ずかしいじゃない……」
「……すまん」
「だから――」
「できるだけ優しくはする……が、初めてだからその……いろいろアレだ」
「……うん」
恥ずかしそうながらも、二人の唇が重なり合う。
いつもより長い口付けに、酸素を求めて雪奈が口を薄く開けると里玖の舌が、するりと侵入してくる。
呼吸することも忘れ、互いを貪り合うように唇を重ね続ける二人。
苦しさからか、雪奈の手がだらりと落ちた。
「……だい、じょうぶか……」
息を切らせて問う里玖に、頬を紅潮させて大きく息をしながら雪奈は頷く。
暖かな部屋なこともあり、雪奈の胸元がうっすらと汗ばんでいた。
汗はキラキラと雪奈の胸元を煌めかせ、里玖は吸い込まれるように雪奈の胸元に口付ける。
「……ぁっ」
漏れる吐息と甘みを帯びた声色。
それらは鋼鉄だった里玖の理性をバラバラと引き剥がして壊していく。
幾度も幾度も胸元に口付けられ、その度に声を漏れる。
雪奈は声を抑えようと身悶えし、里玖は雪奈の胸元に手を掛けようとしていた。
「りく……あか、り……やだぁ……」
煌々と明かりに照らされ、雪奈は涙目で訴える。
里玖は明かりを落とす代わりに、少しばかりカーテンを開けた。
隙間から月明かりが差し込んで、雪奈を神秘的に魅せて煌めかせる。
「雪奈、愛している」
「わたしもよ、りく」
こうして、二人は晴れて夫婦となったのだった。