紅葉さんの創作を見て滾った小話。
出会いは強引でした…
ここ最近、新しい型の携帯がはやっているらしい。
友人の香月弥悠曰く、それは人の形をしているものだとか。
確かエンジニアで電子製品を作っているとは聞いていたが…
#うちの子がヒトガタ携帯だったら
「で、これが試作機なんだけど。どう? モニターになってみない?」
珍しく俺を自宅に呼びつけ、そう言ってきたのは友人である香月弥悠。
無造作に括られたポニーテールと着ている少し草臥れた感の服が残念女子と言うのだろうか。
しかし、広げられた両手の上にはポケットに入りそうなくらい小さな少女がちょこりと座っている。
茶色のシフォンボブに幼い顔立ち、やけに目を引く紫色の瞳。
服装はシンプルなワンピース、といったところだろうか。
「ディムコの新作でカスタマイズできるヒト型携帯ってことで、とりあえず知り合いをモデルにしたんだけど。どう?」
「どうって……俺には必要ない」
「えー。可愛げのないガラケーより性能いいよ? 自分で操作しなくてもいいし」
「いらん」
心情を述べるとすれば、どうしてそんなものを持たなければならないのか、である。
「いまどきガラケーなんて古いし、里玖も使ってみなって」
ずいっと俺の前に出された少女……型の携帯。
見た目が人なだけに目が合わせられない。
『あの……マスター?』
「あぁ、ごめんね。てかね、モニターの件は決定事項なのよ。だから、使え」
「!? バカ言うな!!」
「だってモニター用意しなきゃ試作機作らせてくれないとか言ったのよ? だから、お願い!!」
少女をテーブルに置いて土下座のごとく頭を下げる香月。
携帯であるはずの少女の顔が心なしか困ったよいな表情をしている気がした。
「……わかった。期間はどれぐらいだ」
「ありがとう! ありがとう里玖! それじゃ所有者登録を……」
「おい、いつまでだと」
「ユキナ、所有者を変更するわ」
『所有者変更、コウヅキミユウ から変更される方の名前を音声登録します』
俺を無視して勝手に話を進める香月に小さくため息をつく。
「里玖、フルネームでこの子に向かって伝えて」
「……中瀬里玖」
『ナカセリク を登録しました。どうぞよろしくお願いします、マスター』
立ち上がったユキナと呼ばれた携帯はワンピースの裾を掴むとそれを軽く広げながらぺこりと頭を下げる。
これが、俺と携帯であるユキナの出会いだった。