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【SHパロ】魔法使いサラバント【里玖雪】

Sound Horizonより第3地平線「Lost」から
Assorted Horizonsという映像集に入っていたせいもあり、
映像見てたら唐突に書きたくなったのです。
実態はパロという名の曲解釈だけどね!

続き
 ある砂漠の国にひとりの青年がいた。
 彼の前にあるのは小さな墓標がぽつりと佇んでいる。
 青年は名残惜しそうにその墓標から離れ、一頭のラクダを引き連れて歩き出した。

 青年は魔法使いにして剣術に長けていた。
 魔法と剣術を駆使し、魔法剣を生業にして青年は街を転々とする。
 彼はあるものをひたすらに探していた。
 それは、死者を甦らす禁断の秘法。
 己に降りかかるのが厄災のみだとわかっていながらも彼は探した。
 彼にとってその人はなんとしても甦らせたい人だった。

 いくつ目の街なのか、青年が数えるのをやめたころに辿りついた街の路地裏でのこと。
 わけありの依頼を受ける場所にうってつけのその場所で、青年は転機を迎える。
「おまえさん、魔法のランプが欲しくはないか?」
 そう言ったのは杖を付き、髭を蓄えた胡散臭そうな色黒の男。
 唐突に告げられたその言葉に青年は怪訝な表情を浮かべた。
「その銀色の髪を見るに、お前さんは魔法使いだろう? ならば魔法のランプの存在を知らぬわけはないだろう?」
 男は青年の髪色を見て魔法使いだと判断した。
 金や茶、黒が多いこの世界で魔法を使える人は何処かしらの色が人と違うのだ。
「……存在は知っている。だが」
「わしはその在り処を知っている。どうだ、欲しくはないか?」
 魔法のランプ、その存在自体は青年も言い伝えとして聞いたことはあった。
 しかし、それがどこにあるのか誰も知らない。其れゆえに伝説の宝具と聞いていたのだ。
 だが目の前の男はそれの在り処がどこなのかを知っているという。
 青年は男に問う。
「そのランプはどんなものだのだ」
「存在を知っているのならば、わかるのではないか?」
「言い伝えとして知っているだけだ」
「なるほど。そのランプは擦れば魔神が現れて3つの願いを叶えてくれる。どんな願いでもだ。私は足が悪い。場所が分かったまではいいがそこに行くまでには厳しい物があってな」
 使い方を告げると男は右足をさすりながら理由を告げる。
 しかし青年は未だ怪訝そうな表情をしていた。
「仮に、俺が取に行ったとして。報酬はどうなる」
「在り処を教えるのはもちろんのこと、願い事1つだけ私に譲ってくれ。そしたらあとはおまえさんの物にして構わない」
 男が出した条件に、青年はしばらく考えて“わかった”と言う。
 男は嬉々として青年にランプの在り処を伝えた。


 青年は街から南西へと向かっていた。
 オアシスの近くにある洞窟にあるのだと男から告げられ、吹きすさぶ風に阻まれながら目的地へと向かう。
「あそこか……」
 オアシスが見えてくるとその先に洞窟のようなものが見えてきた。
「これか……」
 青年はラクダを留めておくように餌を大量に置いてラクダに待つよう言いつける。
 聡いラクダなのだろう、大きく頷く動作をして餌をゆっくりと食べ始めた。
 青年はそれを見て洞窟へと侵入する。
 砂漠の下に広がっていたのは大きな空洞に作られた遺跡だった。
 外とは打って変わり、遺跡の中はひんやりとした空気に包まれていて、ここに来るまでにかいた汗のせいなのか青年は寒気を感じる。
 いつもの侵入者除けの罠をくぐり抜け、青年はひたすらに奥へと歩みを進める。
 迷いのない足取りで突き進む青年の表情は無表情に近い物だった。
 願いは、遠い昔に決まっていたのだから。
 いくつもの部屋を通り、たどり着いたのは妖しげな祭壇のある広間。
 祭壇の上に黄金に輝くランプと古びた絨毯が鎮座している。
「これが……」
 青年はおそるおそる手を伸ばす。
 いとも容易く取れたランプはひんやりとしていて、普通のランプにしてはずしっと重い。
 その時、ガラッと大きな音が響いた。
 見上げれば何かが崩れたように天井から砂埃が落ちてくる。
 その途端、ガラガラと大きな音と振動が遺跡の中を包んだ。
 青年はこの異変に気づき、ランプと絨毯を持ち出して走り出す。
 祭壇の間を抜け出て少ししてから、轟音を立てて祭壇の間が崩れ落ちた。
 いくつもの部屋を抜けてはそのたびに崩れ落ちていく。
 入り口まであと少しのとこで声が響いた。
「ランプをよこせ!!」
 それはあの胡散臭い男の声だった。
 青年は驚き、舌打ちをする。
「早くこちらに寄越すのだ!!」
 男は手を差し出すが、その目的は青年ではなくランプのみで。
 しかし男の手は届くことなく、青年は砂に襲われ埋もれてしまった。


 暗い闇の中、青年は漂う感覚に包まれていた。
 上も下も立っているのか寝ているのかもわからない中、青年は思う。
(俺は……死んでしまったのだろか……)
「愛しい人……私の大好きな人……」
(その声…ユキナなのか!)
 懐かしい声が響くと共にぼぉっと光が現れ、人の形を成す。
 現れたのは長い茶髪の少女。少し寂しそうな表情で青年を見ていた。
(ユキナ……っ!)
「あなたはまだこっちへ来てはいけないわ。やり残したことがきっとあるはず……」
 両手を胸に当て、目を伏せて小さく首を振りながらユキナと呼ばれた少女はいう。
 青年は声を出そうと口を開いた。
 しかし声が出ているのかすら、青年自身はわからない。
(おれは……もう疲れたんだ……ユキナ、お前に会えないのはもう……)
「失われたモノの為に願うより、今目の前にあるモノを見つめて……もう、私に囚われないで……」
(おれは……おれは……!)
「貴方には幸せになってほしいの……愛しい人……私はずっと、貴方の中にいるわ……リク……」
 少女は笑いながらまっすぐに青年へと近づき、そっと抱きしめる。
 暖かな光が青年を包み、少女は青年に小さく口づけた。


 青年が目を覚ました時、彼はオアシスにほど近い砂の巻きあがる砂丘の上にいた。
 彼の目の前には覆いかぶさるように短い茶の髪の美しい少女が、泣きそうに微笑んでいた。
「やっと、気が付かれたのですね……マスター……」
「お前は……」
「私はランプの魔神。あなたの持つランプに閉じ込められていた魔神でございます」
 魔神だという少女の声を聴いて、青年は眼を見開く。
 しっかりと意識して少女を見た時、青年は衝撃を受けた。
 髪の長さこそ違えど、少女の姿は亡くした恋人にそっくりだったのだから。
「ゆき……な……」
「マスター?」
「ユキナ!!」
 青年はガバリと起き上がり、魔神の少女に抱きつく。
 突然の行動に驚いた少女は慌てながら青年を離そうとした。
「お、落ち着いてくださいマスター! ユキナという方はどなたのですか?」
 少女の言葉に青年ははっとする。
 体を離し、じっくりと少女を見る青年。
 困惑の表情を浮かべているが、青年からすれば亡くした恋人本人のように見えた。
「お前は……ユキナじゃないのか?」
「先ほども申し上げましたが、私はランプの魔神。あなた様が持つランプに閉じ込められていた者です」
 少女はにこりと笑いながら右手を胸に当てて軽く会釈する。
「我がご主人様(マイマスター)、さぁ願いをなんなりと。私の力で叶えましょう」
 会釈をしたまま頭を垂らし、少女は言う。
 青年は戸惑いを見せた。
「なんでも……なのか?」
「はい、マスター。出来うる限りの願いを叶えます。ですが、願いは3つまでしかかなえられません」
「なんでも……もし、3つすべての願いを叶えたらお前はどうなるんだ」
「再びランプの中へと戻り、新たな主人(マスター)に出会うまで待ち続けることになるでしょう」
 少女の声は明るいものから暗いものへと変わっていた。
 声が震えているように聞こえ、青年は考える。
 魔神を目の前にして、彼はまだ考えていた願いを口にしていない。
「とりあえず、顔を上げてくれ」
「はい、マスター」
 少女は言われた通りに顔を上げる。
 茶色のシフォンボブに幼い顔立ち、紫で統一された髪飾りに踊り子を思わせる衣装。
 しかしその両の手首や足首には冷たい金属で出来た枷のようなものが付けられていた。
 そして、肌で感じるのは圧倒的な魔力のオーラ。
「……本当に魔神なのだな」
「はい、さきほどからそう申しておりますが……見えないのでしょうか……」
「いや、すまない。恋人にあまりにも似ていたものでな」
「恋人……ユキナという方がそうなのですね!」
「あぁ、昔に亡くしたがな」
「あ……」
 眉を下げて哀しそうな表情をする青年。
 その表情で少女は察してしまった。
「……もし、秘法をお望みであれば、願いは1つのみとさせていただきます」
「……なに?」
「死者を甦らせる秘法は禁忌の魔法。魔神である私でも数千年は眠るほどの覚悟と魔力を使う代物です」
 そう言葉を放つ少女の表情(かお)は真剣そのものだった。
 青年は眼を伏せ、胸に手を当てて考える。
(ユキナ……俺はお前を忘れたくない……だが……)
 胸に置かれた手はいつの間にか自身の胸ぐらをつかんでいた。
 その様子を見て少女は声をかけようかと迷う。
(お前を差し置いて、俺は……)

―貴方には幸せになってほしいの、だから迷わないで―

「!」
 響いてきた声に青年は顔を上げる。
 魔神の少女は眼を瞬かせて首を傾げた。
(ユキナ……いいのか……?)
 自問自答するように青年は問いかける。
 しかしそれ以降声が聞こえることはなかった。
「あ、あの……マスター……?」
「……お前、名前は」
「名前……ですか?」
「あぁ。俺はリクという」
「私は……私に名前というものありません。私は主人の願いを叶える愚かな魔神。名という個を主張するものはありません」
「そうか……ならば、ラクダを一頭と二人の人が暮らせるだけの金を一緒に出すことは可能か?」
「それは別々になりますね」
「そうか。ならば願い事2つ分をそれに使いたい」
「分かりました」
 青年の願いに魔神の少女は一礼し、両手を合わせる。
 すると何処からかラクダがのっそりと青年の元へと近づき、少女の手からは小さな金塊が溢れだす。
「ラクダは呼び寄せました。お金はこちらを使えばしばらくは持つでしょう。さて、2つの願いを叶えました。最後の願いはなんでしょう?」
 溢れた金塊をどこからか出した袋に詰めて青年に渡し、少女は問う。
 青年はしばし沈黙し、口を開いた。
「キミに、魔神に自由を」
「え」
 ぱぁっと少女の体が光出す。
 両の手首と足首につけられた枷は強く輝くとパキィと音を立てて割れ、光は少女の全身を包み込んで収まった。
「え、え?」
 少女は驚きながら両の手首足首を、全身を見る。
 青年・リクが感じていた魔力はいつの間にか弱まっていて、けれども人並み以上のそれが漂っていた。
「枷が……取れた……」
「どうやら願いは魔神への物でも有効だったようだ」
「こ、これではマスターの願いを叶えることが…!」
「いや、もう叶えてもらったさ。あとは……」
 リクはその場に膝を付き、少女の手を取った。
「キミに名をつけさせてほしい。そして、俺と一緒に来てほしいんだ」
「え……」
「正直、始めはユキナなのだと思ってしまったんだ。あまりにも似ていたものだから……だが、彼女が迷うなと言ってくれた。だからキミを手放したくはない」
「え……えぇ!? そんな、私はしがない魔神……名前など……」
「もう魔神ではないさ。だめだろうか……?」
 見上げるリクに少女は慌てふためく。
 今の今まで魔神として生きていたがゆえにどうしていいのかわからないのだ。
「お、お仕えすることはもちろんなのですがっ……! 先ほども言いましたが私はしがない愚かなまじ――」
「率直に言おう、今すぐに答えなくていい。キミと生涯を共にしたいのだ」
 リクは立ち上がり、少女の両手を取って言う。
 ストレートな言葉に少女は顔を真っ赤にさせてあたふたした。
「あ、あの……その……よ、よろしくお願いします……」
 しばし間があって、少女は頭を下げる。
 リクは満足そうに笑みを浮かべていた。
「名前はそうだな……」


 吹きすさぶ風の中、巻き上がる砂に阻まれながら青年は旅を続けていた。
 旅の道連れとなるのは2頭のラクダと茶髪の美しい少女。
 仲睦まじく砂丘を進む彼らの薬指にはお揃いの指輪が光っていた。

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