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【LW】白い異界01

異界への突入
記憶エリア01:???
記憶エリア02:雪奈の記憶
続き
 夢ノ国を出て南へと歩く。
 然程離れていないその場所に、ぽっかりと虚空に穴が開いていた。
 覗くように見れば白い世界がひたすらに続いているように見える。
「これが例の界蝕、かな?」
「さぁな。見えてるのなら教えろ」
「里玖っ」
〔見えてるし聞こえてるよ。そこで合ってる。ただ、中がどうなってるかまでは見えないから、気を付けてとしかいえないよ〕
 聞こえたのは千里眼の神官たるトトの声だった。
 けれど、千里眼を思ってしてもその中をのぞくことはできないらしい。
「わかったわ。それじゃ、行こっか」
 そう、意気込んだ雪奈の声は若干震えているように里玖には聞こえた。
 そっと視線を向ければ両の拳を握っていて、緊張している面持ち。
「雪奈」
「ん?」
「手」
「て?」
 里玖は雪奈の手を取り、離れないようにからめるように手を繋ぐ。
 その意味に気づいたのか、雪奈は照れながら“あ、ありがとう”と礼を言った。
「大丈夫。傍に居る」
「うんっ!」
 顔を見合わせ、二人は手を繋いだまま開かれている穴の中へと身を投じた。


 中は一面が白い世界だった。
 比喩でもなく、文字通り白い空間に佇む里玖と雪奈。
 時が止まったかと錯覚させるような空間に手を繋いだまま二人は立っている。
「ここが……異界?」
「さぁな。おい、聞こえてるんだろう」
 里玖がぶっきらぼうに声を張り上げて叫ぶ。
 しかしそこの声は広がることなく掻き消えてしまった。
「あ、れ?」
「聞こえていないようだな」
「トト君の言うとおり、見えてないのか……」
「加えて交心術とやらも使えないわけか」
「だね……」
 雪奈はぐるりと辺りを見回す。
 あるのは白の空間のみで、入ってきた入り口が見当たらない。
「出口……なくなっちゃった……」
「まぁ、ありえなくはないな」
「と、とりあえず内部調査だね!!」
「そうだが……落ち着け」
 変に意気込む雪奈を見て、里玖が頭を撫でる。
 わしゃわしゃと撫でられ、されるがままの雪奈は“うん”とうなだれながらちょっと落ち込んだような声を出した。
「……?」
「どうした?」
「さっきから何となくではあったんだけどね、なんか感じたことのある感覚が……」
 首をかしげながらもきょろきょろと辺りを見回す雪奈。
 やはり白しかない空間に声が響く。

――だれ?――

「え?」

――お姉さんたち、だれ? 何処から来たの?――

 響いたのは儚げ少女の声だった。
 雪奈は驚いたような声をあげ、里玖は雪奈を下がらせて剣に手をかける。が、
「私は雪奈。この辺で異変が起きてるって聞いて調べに来たの」
「!? 雪奈、何を――」
「大丈夫。話しかけてくれてる子は大丈夫だよ」
 警戒心を高める里玖に対して、雪奈はそんな里玖をなだめる。
「ここがどこかわかる? できたらあなたのことも知りたいな」
 語りかけるように、心を開くように雪奈は空に向かって話しかける。
 聞こえたのは戸惑うような声。

――私も、わからない。わたしは――

 名を名乗ろうとしたのだろう、けれどそれは二人には聞こえない。
 その部分だけに風が流れてかき消されてしまった。

――おねえさんの声、なんだか聴いたことがある――

「え?」
 さすがの雪奈も、この言葉には驚きを隠せなかった。
 彼女は今聞こえる少女の声に覚えがないのだ。

――いつだろう――

 そう声が聞こえたかと思うと、勇者の二人がいる空間が姿を変える。
 光とも闇ともいえない狭間のような場所に、何かのオブジェに近い断片のようなものが浮かんでいた。
 雪奈は身を固くし、里玖はすぐにでも抜けるように手をかけたまま。
 ある場所からじわじわとにじみ出るように1つの影が姿を現した。
 それは褐色の肌に鈍く光る銀の髪を持つ、人狼のような人の姿。
「……っ」
 雪奈はなんともいえぬ既視感に襲われ、無意識に自分の胸ぐらをつかむ。
 人狼は二人に背を向けたまま、どこか宙を見ていた。

―“……何をしている。どこから入ってきた”―

 人狼が放ったであろう先に目線を向ける里玖と雪奈。
 そこには半透明の雪奈の姿が一瞬うつされ、そして人狼と共に消えてしまった。

―おねえさん、カイさんと知り合いだったの?―

 ビジュアルを映すのであればきっと首をかしげているだろう声に、雪奈は応えられなかった。
 それは里玖も同じようで、言葉を失っていた。
「ご……ごめんなさい……私には、わからないっ」

―そっか……―

 少女の声に落胆が混じる。
 空気が震える。
 再びあの人狼が姿を現し、里玖は雪奈を護るように前に立つ。
 しかし、人狼の様子は先ほど違い、警戒を露わにしている表情だった。

―“そこより、一歩たりとも”―……

 人狼は言葉を言いきらぬうちに再び姿を消してしまった。
「誰かいたのか……?」
 向けられた警戒が誰への物なのか、二人にはわからない。

――私達、会いたい人がいるの―

 紡がれた声は2つに増えていて、憂いとも焦りとも取れるような声色だった。

―もう一度、もう一目だけでも……―

 悲しみのこもった声が切れると、それ以上声が響くことはなかった。
 白く明るかった空間は明度を落として、やがて部屋のような空間へと姿を変える。
 戸惑いと警戒を抱えた二人の前に、小さな光の球がゆっくりと降りてきた。
 顔を見合わせて、雪奈がそっとそれを包むように受け取ると、光の球は雪奈の手の中で呼吸をするように淡い光を放っている。
「暖かい……」
「これはなんだ?」
「わからない……でも、さっきの声の子にかかわる物なんじゃないかな……」
 小さな光を失くさないように、落とさないように雪奈は抱きしめる。
「あの子たちに会わないといけない気がする」
「……どうしてだ」
「勘……というか、そう思ったの。最後の言葉、あの子たちは誰かに会いたいって思ってる。それが誰かわからないけど、力になりたい」
 意を決したように告げる雪奈に、里玖は苦い顔をした。
 “どうしてそう、自分を犠牲にするのか”と。
「雪奈、俺たちの今の目的はこの場の調査だ。夢ノ国を助ける、誰かもわからないやつを逢わせたい、あれこれ安請け合いして自分自身を犠牲にするのはやめろ!」
 それは心からの叫びのようだった。
 幼いころからの性格を知っているからそこ、変わらない雪奈の性格に里玖は泣きそうな表情をする。
 しかし、雪奈は穏やかな表情で頭を振り、里玖に告げた。
「犠牲になんてしてないよ。やりたいからそう思ったの。逢いたい人に逢えないのは、とてもさみしくてつらいから……」
 その言葉は里玖にかつての旅を思い出させるものだった。
 意図的に記憶消したり、自分から離れたりすることをした里玖にはぐさりと来る言葉で、諦めに近いため息をこぼす。
「そう……だな。だが、無理だけはするな。してほしくないんだ」
「うん、わかってる。わかってるよ」
 “わがまま言ってごめんね”と言い、雪奈は里玖を抱きしめた。
 しばしの間、抱擁を交わす二人。
 精神的にも落ち着いたのだろう、体を離した二人は頷きあった。
「たぶん、奥に何かある。そこにあの子たちがいると思うの」
「何があるかわからん、離れるなよ」
「うん」
 そう言って、二人は再び手を繋ぎ、奥へと歩き始めた。


 しばらくの間、白い空間を歩く二人。
 魔物が出る気配も、先ほどの少女が聞こえるわけでもなく、互いの呼吸音が聞こえるくらいの無音に包まれていた。
「……何もないね」
「あぁ」
「カリス君も来てる……はずだよね」
「そうは言っていたが、わからんな」
 こつん、と雪奈が一歩踏み入れた時に空気が震えた。
 予告なく変貌を遂げた空間に驚く二人。
 白かった空間はどこかの部屋へと変わり、ベッドに眠る少女の姿と付き添う青年の姿を映し出す。
「これって……」
「俺たちか」
 その光景は二人にとって見覚えのあるものだった。
 親友を助ける旅から復讐を果たすための旅に変わり、仇討ちを終えた後の物だと二人は同時に思う。
「この時、私は寝てたんだよね」
「あぁ。俺を助けるために魔力を使い果たした、と聞いた。そのせいで深い眠りについているのだと」
 里玖は思い出す。
 失ってしまうという絶望と喪失感を。
 未だつながっている手は何時の間に力が込められていて、痛そうに雪奈に名を呼ばれて意識を戻した。
「あ、あぁ。すまない」
「大丈夫……!?」
 ぐにゃり、と空間がまた姿を変える。
 それは先ほど見た狭間の空間で、オブジェのような断片を見下ろすように二人が浮いているという、とても不思議な感覚に陥っていた。
「なっ!?」
「な、なんで……!?」
 そして二人の前には半透明の雪奈の姿が現れる。
 ふよふよと浮く半透明の雪奈は辺りを見回し、やがて眼下にいる人影を見つめた。
 そこにいたのは赤いマフラーに黒のロングコートを着た、先ほどの人狼。
 
―“銀色の髪……里玖と同じだ……”―

 聞こえた声は紛れもない雪奈の物だった。
 しかし、実体のある雪奈ではなく半透明の雪奈の物で、二人は混乱する。
「ど、どういうことなんだ……?」
「わからない。こんな場所、私しらないもん!」
 どうすることもできず、二人は成り行きを見守ることにした。
 人狼が半透明の雪奈に気づき、声をかける。
 ここは何処なのか、どこでもない、立ち去れ、そんなやり取りが交わされていて。
 人狼の態度はとてもそっけない物だと雪奈は思う。
 半透明の雪奈はふよふよしながら人狼の傍へと降りたった。

―“ん? お兄さんと私、それ以外にあと3人?の気配がする”―

 半透明の雪奈が放った言葉に、人狼は眼を見開いた。
 勇者の二人は何も言わずに見守る。

―“二人は……動いてないから寝てるのかな? あとの一つは傍に居る感じがするし……”―
―“……どうしてそう思う”―
―“お兄さんの後ろから感じたんです”―

 勇者たちは人狼の後ろを見る。
 しかしそこに何があるわけではなく、首をかしげた。

―“何も見えないけど、いる気がしたんです。あ、だからお兄さんは“帰れ”って言ったんですね“―

 臆せず話し続ける半透明の雪奈。
 人狼は明らかに警戒していて、見ている勇者たちはハラハラとした気持ちを抱く。
 やり取りを交わしているうちに、半透明の雪奈の体が透け始めた。
 残されたわずかな時間で、半透明の雪奈は情報を拾うと人狼に話しかける。
 やがて肩まで消えかかった時、勇者・雪奈にとって覚えのある力を感じた。

―“『っ…お、お兄さんに、その人に、その子たちに、善いことが、幸せなことが訪れますようにっ!』”―

「言ノ葉?!」
「言ノ葉と言えば、オリジンが言っていた雪奈だけの力、だよな?」
「う、うん……言ったことを実現させる力、だけど。使った記憶なんて……」
 “ない”と言いかけて雪奈は考え込む。
 空間はいつの間にか前の部屋のように変貌していた。
「そっか……だから……」
「雪奈?」
「さっきね。なんでか既視感を感じたの。あの子が言ってた“聴いたことがある”も、もしかしたらこのことがあったから、かなって思って……」
「でも覚えてないのだろ?」
「うん……最初にみた私が寝てるときの場面、もしかしたらあの時夢を見ていたのかなって思った。里玖言ってたでしょ? 一度起きたけど、また寝ちゃって――」
「次に目を覚ました時は起きたことすら覚えてなかったからな。確かに夢であれば覚えてないのかもしれないが……」
「直接じゃないけど私、あの子たちと関わりがあったのかもしれない。うん、やっぱり逢わせてあげたい! もしかしたら今この時が、言ノ葉の力が発揮されてる時なのかも!」
 考え込んでいた雪奈の中で何かを思い出すようにいろいろなピースが現れては嵌っていく。
「しかし不思議だな。記憶にないことも映し出しているのか……」
「たぶん、覚えてないだけで心が憶えているのかも。この場所は、記憶を映し出す異界なのかもしれない」


***
里玖雪、記憶の欠片をゲットする、でした。
でも光の球が記憶の欠片ともオーブとも理解してません。
おかしい、説明は聞いてるはずなのに。
1つ目の記憶はシロクロちゃん側から見えたであろう物。
2つ目の記憶は雪奈の記憶を反映させてるつもりです。
カリス君の記憶も入れたけど、なんか変かな……

ふらふら移動してるのでどっかで出会えるかもしれません。
合流かもーん。

雪奈の新アビリティ「言ノ葉」
特性:放った言葉を現実にさせる物。ただし精神的疲労がかなり大きいためにめったなことじゃ使わない能力。
※かつて、里玖はこの力に助けられたことがあります。その時の代償は雪奈自身の持つ全魔力(+魔法具)と8割の体力でした。だから里玖は失う事を恐れているという。

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