始まりはじま…待ってどこ行くの!?
とある部屋の中、二人の少女が魔方陣の描かれた床の上で眠る青年を起こそうとしていた。
一人は長い金の髪に三つ編みにして束ねた、神官のような服装の少女。
もう一人はアッシュブラウンの髪をツインテールにし、蝶を模したよう翅を背負ったワンピースをきた幼い少女。
そして、眠る青年は輝くような銀の髪を持つ、旅の剣士のようだった。
「もしもーし。大変なんです、起きてくださーい」
幼い少女が青年をゆさゆさと揺すりながら起こそうとする。
軽い衝撃に、意識を浮上させた青年は上体を起こし、眼を瞬かせながら辺りを見回した。
「はじめまして! 私は神官のテラスです!」
元気よく挨拶したのは幼い少女だった。
青年は突然のことに驚くが、幼い少女・テラスに続くように金の少女が口を開く。
「私は神官のルーと申します。突然のことで驚かれているかと思いますが……この場所は『夢ノ国』。世界の外に在り、すべての世界に連なる場所。そして全ての世界を隔てる場所。私とテラスはこの夢ノ国の管理を行う神官です」
矢継ぎ早な説明に、青年は口を開くタイミングを見失ってしまった。
しかし、聞きたいことや情報が向こうから流れてくるためにしばし耳を傾ける。
「詳しい事情は訳あって私達でも難しいのですが……」
「ルー姉様、時間ないよ。急がなきゃ!」
憂いの表情を見せながら説明するルーに、慌てた声でテラスが告げる。
青年にはその理由がわからない。
ルーはテラスを見てうなずくと、青年を見据えた。
「申し訳ありません、勇者様(・・・)。あなただけが頼りなのです。私と共に来て頂けますか?」
青年は勇者だと呼ばれて驚いた。
出逢って間もない人間から勇者呼ばわりされることは何もしていない、それが青年の想いだった。
「……悪いが、俺は勇者なんてものではない。人違いだろう。それよりもこの近くに茶髪の女を見なかったか?」
辺りを見て青年が出した声色は真剣そのものだった。
ルーとテラスは顔を見合わせる。
「いえ……この夢ノ国にお呼び立てしたのは勇者様、あなたおひとりです」
「うんうん。それでね、勇者様。夢ノ国は黒キ者っていう嫌なヤツに攻撃されちゃって……ってちょっと!」
事情を話し出すテラスを尻目に、青年は目的の人物がいないとわかった途端に立ち上がり、部屋を出ようとした。
慌てたテラスは青年を引き留めようと腕にしがみつく。
「離せ。俺は勇者などではない。ほかを当たれ」
「お願いします! 今、この国は黒キ者が放った魔獣が接近してきているのです。どうか……」
「お願い、勇者様!」
懇願するルーと必死に引き留めようとするテラス。
その行動にイラつきを覚えたのか、青年の周りに黒い魔力が集まりだす。
「離せと言ってるだろ!!」
「きゃぁ!」
「テラス!!」
黒い魔力は青年の腕にしがみつくテラスを壁まで吹き飛ばした。
バチバチと音を立てて、黒い魔力は青年の周りを漂う。
「さっきから違うと言っているだろう! これから人を探すんだ。邪魔をするな!!」
そう言い捨て、青年は部屋を出ていく。
ルーは吹き飛ばされたテラスの傍へ行く。
「大丈夫ですか、テラス」
「も~~~~~~!! なによ! なんなのよ! ルー姉様、あの人勇者様なんかじゃないよ!!」
体を起こし、きー!っと怒りを露わにするテラス。
しかし、何か考え事をしているルーに気づいたテラスが声をかける。
「ルー姉様?」
「もしかしたら……」
そっと、ルーが口を開く。
「もしかしたら、あの方以外にも勇者様がもう一人、いるのかもしれないわ」
***
強制召喚を喰らった里玖のお話。
彼はぶれないので神官たちなんて眼中にありません。