猫の日以降に思いついたので、せっかくだからと形にしてみた。
しかし、なんだかおかしな方向に進んでしまった。
オチは決めてたのに、どうしてこうなったんだろう……
「雪ちゃん、新しい回復薬作ってみたの。試してもらってもいいかしら?」
「はい、いいですよ」
喫茶店を営む傍ら、術師でもあるリイネは時折新薬を作ることがある。
大切な子どもたちが何かに遭遇したときに使えるように、という事らしい。
そして、新薬を作っては大切な子どもたちに試すことある。
今回の犠牲者は、雪奈。
ネコネコ
「雪奈、朝だぞ」
「ん……」
新薬を飲んだ翌日、いつものようにゲストルームに泊まった里玖と雪奈。
潜り込むように眠っている雪奈を起こそうとして布団を剥ぎ取り、固まる。
「……ん」
縮こまる雪奈の姿に里玖は固まったままだった。
「おはよう…里玖…」
「あ……あぁ、おはよう……」
「? どうしたにゃ?」
自分の言った言葉に違和感を覚えた雪奈。
とても驚いた表情をしている。
「み、みみ……」
「みみ?」
里玖が雪奈の頭の上をさし、言葉をもらす。
雪奈は指さす方に手を持っていくと。
「!?!?」
ふさっとした何かが、そこにあった。
慌てた雪奈は部屋の中にあるドレッサーに姿を映すと、あるはずのない茶毛の猫耳としっぽが生えていた。
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃにこれ~~~~!?」
「おまえ、言葉まで……昨日何か変なもの食べたか?」
「へんにゃ……そういえば、リイネさんに新しい回復薬できたからにょんでって」
「それだ!」
雪奈が心当たりを言うと、里玖は即答する。
そして、雪奈の手を取りリイネの元へ。
「リイネさん」
「あら、里玖に雪ちゃん。おはよう」
「おはようございます。いったい雪奈に何を飲ませたんですか」
「何って? まぁ、あらあらかわいい♪」
剣幕な表情をしていう里玖にリイネは首をかしげたが、雪奈の姿を見て納得したのか笑顔になった。
当の雪奈はおろおろしている。
「リイネさん!」
「そんな怖い顔をしなくてもいいじゃない、新しい回復薬を作ったから雪ちゃんに試飲してもらっただけよ? どうやら、副作用が出ちゃったみたいだけど」
「ふ、副作用……?」
「えぇ。抜群の回復力だけど、獣化しちゃったみたいね」
雪奈を椅子に座らせ、“どれどれ”とリイネは雪奈の猫耳をむにっと触ると
「みゃ!?」
しっぽをビーンと立てて、悲鳴を上げる。
「まぁ、本物なのね。あったかいし柔らかいし、なによりこんな感じだし」
リイネがむにむにと耳を触り続けると、雪奈は身を捩じらせながら涙目で“にゃ、にゃめ……”と喘ぎに近い声で呟いている。
そんな光景に里玖はびしっと固まった。
「……っ、リイネさんやめてください!!」
はっと我を取り戻した里玖は未だ触り続けるリイネから雪奈を奪い取る。
顔を赤くしたまま肩で大きく呼吸する雪奈を抱き、リイネをにらみつける里玖。
リイネはニコニコと笑っていた。
「雪奈、大丈夫か……?」
里玖の問いに答えるだけの余裕はないのか、浅い呼吸をしながらこくこくと縦にうなずく。
顔は赤く、眼は涙で潤み、口元は艶やかに光を帯びている。
そんな状態の雪奈に、里玖はごくりと唾を呑み込んだ。
自分の内側から、何か例えるならどす黒いものが込み上げてくるような、にじみ出てくるような感覚を覚えて、出さないように飲み込んだ。
キッと里玖はリイネをにらみ、雪奈を連れていつもの泊まる部屋へと戻っていった。
「あらあら……」
困ったように言うリイネが、口元は笑っていた。
(リイネさんはいったい何を考えてるんだ)
雪奈をベッドに寝かせ、里玖ははぁとため息をつく。
雪奈の呼吸は未だ浅く、かと言って熱を出したような温かさはないため、里玖は首をひねる。
「里玖―、入るわよー」
こんこんとノックと共に入ってきたのは、金髪ポニテの女性。
里玖の使い魔である月英だ。
「何の用だ」
「雪奈ちゃんが新薬飲んで大変な状態だって聞いたから様子を見に来たのよ」
月英はそのまま雪奈の傍へ行き、上から下まで舐めるように観察する。
「リイネちゃんは本物って言ってたけど、本当かしら……?」
そう言って、月英が雪奈の猫耳に手を伸ばそうとしたとき、里玖はがしっとその手をつかんで止めた。
「なによぉ」
「触るな」
「いいじゃない、触るくらい」
「触るな」
キッと月英を睨みつけながら言い放つ里玖。
月英はしぶしぶ“わかったわよ”と言って手を遠ざける。
「その代り♪」
と、月英は雪奈から生えている尻尾をつかむと
「ふみゃ!?」
丸まっていた体がビーンと伸びて、猫のように声を上げる。
そんな様子を見た月英は“ほぉほぉ”といたずらを思いついたような顔をして、わさわさと雪奈のしっぽを触りまくる。
「にゃ……にゃぁ…にゃ…」
びくびくと体を震わせながら、何かに耐えるように声を上げる雪奈。
そんな姿の雪奈を見て、里玖の中にいる悪魔が心に囁く。
『雪奈がほしかったんだろ? これに乗じていただいてしまえばいい』
悪魔の囁きを阻止するように里玖の中にいる天使が諭す。
『彼女は心の拠り所。傷つけて嫌われてしまってのいいのか?』
2つの心が里玖に話しかける間も、月英はわさわさと尻尾を触り続け、雪奈は耐え続けている。
「っ、月英!!」
ハッと我に戻った里玖は月英の手を叩いて尻尾から離させた。
「痛っいな。何するのよ!」
「それはこっちのセリフだ!! リイネさんと同じことして、出ていけ!!」
ギッと睨み付け、怒りをあらわにする里玖に一瞬驚く月英だが、にやっと笑うと“それはそれは失礼いたしました~”と言って部屋を出て行った。
「ったく……」
「り……」
「雪奈」
か細い声で名前を呼ばれ、里玖は傍へと向かう。
顔は赤く、薄く口を開いて浅い呼吸を繰り返し、恍惚にも近い表情を雪奈はしていた。
「大丈夫か?」
「りく……」
名前を呼びながら、傍に来た里玖に腕を伸ばして雪奈は抱きしめようとする。
それに気が付いて、里玖は雪奈を抱きしめた。
「からだ……へんなの……」
「変?」
「なかが……あつくて……くるしいの……」
“たすけて……”と熱っぽく言う雪奈の姿が艶めかしく見え、里玖は唾をごくりと飲み込んだ。
そして再び、悪魔と天使が里玖に囁く。
『心だけじゃなく体もほしかったんだろ? 助けを請うているのに助けないほうがひどいんじゃないか?』
『悪魔の声を聴くな。無理矢理に抱いて傷つけて離れて行ったらどうするんだ。打開策を考えるんだ』
里玖の中の二つの声と、求めるような雪奈の声。
里玖はぶんぶんと頭を振り、決意する。
「雪奈、許せ。“スリープ”」
「り……く……すぅ……」
里玖の決意、それは雪奈を魔法で強制的に眠らせることだった。
「ねぇねぇリイネちゃん」
「あら月英」
部屋を出て行った月英は真っ先にリイネの元へと向かっていた。
フロアの片づけをしていたリイネは降りてきた月英に気づいて手を止める。
「なぁに?」
「雪奈ちゃん見てきたけど、いったい何飲ませたの? 回復剤ではないんでしょ?」
「まぁ、よくわかったわね。半獣化する薬にほんのちょっと興奮剤を混ぜてみたの。まさかあんなまでなるなんて♪」
「やっぱり! 喘いでる雪奈ちゃん、可愛かったな~」
「二人の発展に役立てばって思ったけど、うまくいくかしら?」
「どうだろうね~。里玖の中の男が目覚めてくれればいいけどねー」
「ねー」
キャッキャと楽しそうに話すリイネと月英をちょっと離れた位置から見るジーベルは思う。
(可哀そうに……すまんな、雪奈ちゃん、里玖……落ち着いたらおいしい物食わせてやるからな)