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召喚されし者は

交流してみたかった第二弾……の手直し。
クオレ様のところの「このこころ、おやしらず」をベースにして書いてる部分もあります。
時間軸は、未完結の本編終了から数か月後という設定。
この話を書くにあたって、いろいろと相談そして許可を下さったクオレ様に最大の感謝を送ります!

続き
 彼らにとって壮大な旅が終わってから早数か月がたったころ。
 少女はある決断をした。


召喚されし者は


 少女・雪奈が決断したこと。
 それは精霊たちをまとめる精霊の王、根源を司る精霊・オリジンとの契約だった。
 度々力を借りることはあれど、正式な契約はしておらず、また彼女が召喚士を目指した最大の目的であった。
 精霊との契約は己の心、そして己の力を見せるもの。
 すなわち問答無用のタイマンバトルである。
 タイマン故、他者が手を出すことは許されず、もしもその事態が起きれば術者は必然的に負けとなり、契約ができなくなってしまう。
 だから雪奈は誰にもこの決断を告げずに、村から離れた場所にある広い平原に来ていた。
 恋人である青年剣士の姿も、仲のいい使い魔たちの姿も彼女の周りにない。
 雪奈は胸に手を当てて深く深呼吸を1度する。
 やがて、意を決して魔方陣を書き始めた。
 完成したのは人が4人ほど立てそうな大きさの魔方陣。
 雪奈は陣の縁に立ち、杖を陣の内側にさして詠唱を始める。
「6つの元素をまとめし者 総ての源を司る者よ 我れは召喚士雪奈 汝との契約を望む者也」
 雪奈の詠唱に呼応するように陣は光を帯びて輝きだす。
 召喚対象を呼び出す感覚を得て、雪奈は一層集中する。
 だから彼女は気づけなかった。
 陣が帯びた光の色が精霊を呼び出す乳白色ではなく、漆黒であることに。
「今 ここにいで現れ……!?」
 あと少しで詠唱完了のところまで来て、雪奈はいつもと違う異変に気付いた。
(こ、これは……!?)
 陣が帯びた光はいつしか暴走を始め、バチバチと大きな音を立てて光が走り出す。
「きゃぁ!?」
 暴走した力は爆発を起こし、辺りは煙に包まれる。
 (い、色が……色が黒だった……私、もしかして……)
  少しずつ晴れていく煙の中、雪奈は息をのんで杖を強く握りしめる。
  やがて姿を現したのは、人の型をした者だった。
 金の髪と金の瞳、そして暗色の肌が印象的な、豪奢なマントに身を包んだ見た目十五歳ほどの少年。
 しかし、少年というには似つかわしくない重い空気を纏い、威圧感のようなものを与えてくる。
(この感じ……まるで……)
「……ぬしが我(わ)を呼び出した者か」
「は、はい! …じゃない。そうだ、我が名は雪奈。この世界の精霊をまとめる王、精霊王・オリジンとの契約のために……」
「召喚の陣を描いたが“我”を呼び出してしまった……というわけだな、娘よ」
「うぅ……そのことについては……深くお詫び申し上げる……普段と同じ方法を施行されたつもりだったのですが……」
 精霊との契約を幾度も行ってきた中で、弱気になってはいけないと学んだ雪奈だが、“誤召喚”と事態に考えが至り、有り得ない事態に些か混乱しているらしく、声は次第に小さくなり、張っていた気は虚勢に変わる。
「……しかし、対象が違えど、使役したく呼び出したのだろう」
「!? そ、そんなことは……! 私が契約したいのは精霊王オリジンのみ! 貴方様とは……!」
 少年が発した言葉に雪奈は動揺する。
 その動揺故、雪奈はまた気づけなかった。
 少年が目を細め、の口端が吊り上げていることに。
「何にせよ、ただ還せると思わぬことだ、小娘っ」
「なっ……!?」
 突如として、少年の周りに小さな水の球が浮かぶ。
 それらは真っ直ぐに雪奈へと、速度を上げて襲いかかってくる。
「!? “シールド”」
 詠唱なしで唱えた魔法の威力は弱く、襲ってきた水の球はまるで銃弾を思わせる破壊力で、雪奈の張ったシールドを貫通していく。
 幸いにも致命傷には至っていない。
「くっ……(な、何……この攻撃……)」
 水の銃弾攻撃は止まず、雪奈は小声で防御魔法を唱える。
 依然威力は衰えず、水の銃弾はどんどんシールドを貫通して雪奈の体を掠って傷つけていく。
(ノー…モーションだよね……加えて無詠唱って…まさか!?)
 ここにきて、雪奈は気づいた。感じた力と微かに感じたその属性に。
(この人、異世界の闇の…!?)
 その時、1つの弾がシールドを貫通して雪奈の右肩を捉えた。
「ぁっ!?」
 貫いた反動で雪奈は右肩から倒れこむ。
 シールドは消え、畳み掛けるように水の弾が襲いかかる。
〈させません!〉
 女の声が聞こえると、水の弾を防ぐように水のバリアが雪奈の前に張られる。
 雪奈の前に現れたのは水の体でできた、精霊ウンディーネ。
〈マスター、ご無事ですか!?〉
「ありがとう、ウンディーネ。大丈夫よ…」
 血の流れる右肩を抑えながら、どうにか立ち上がる雪奈。
 精霊が出てきたことに少年は“ほほぉ……”と小さく声を漏らす。
 “すみません、マスター”そうウンディーネは呟いて姿を消す。
 どうにも手を出さないわけにはいかなかったらしい。
 雪奈はもう一度“ありがとう”というと、杖を握り直し、少年との距離をとるために走り出した。
「逃がすものか」
 少年がそういうと走る雪奈の足元がひび割れ、行く手を阻むと同時に壁を作り上げる。
「……ノーム、砕いて」
 小声で詠唱し、土の精霊ノームに力を借りる。
 一瞬、土の壁に魔力が集まると、ガラガラと音を立てて壁は崩れ去る。
「ならば」
 少年がつぶやくと、山になった土塊の影が膨らみだし、雪奈を飲み込もうとする。
「!? 聖なる光 ホーリーライト!」
 影に杖をかざし、その先端から光が放たれ影が消える。
 が、間髪を容れずに再びの水弾攻撃に防御が間に合わず、数発まともに受けてしまい、吹き飛ばされてしまった。
「っ……(つ…つよい…このまま、じゃ…)」
 息も絶え絶えに、いたる所から血を流しながらも雪奈は立ち上がろうとする。
 が、それだけのダメージを負っているために痛みもひどく、表情は苦痛にゆがみ、崩れるように膝をつく。
「雪奈っ!」
(!?)
 ウンディーネとは違う声が聞こえ、そちらを見れば銀髪の青年、雪奈の恋人である里玖が肩を揺らして立っていた。
「こ、ない、で……」
「ほぉ、客人か……だが、邪魔をしてくれるな」
少年が里玖を見ると、地割れが起こり今いる場所から近づけないようになる。
「里玖…! やめて、彼は関係ないわっ!!」
 ぜぇぜぇと呼吸しながらも、雪奈は振り絞るように少年に向かって叫ぶ。
 しかし少年はそれすら気にも留めずに里玖を見ている。
 ちなみにこの少年、まだ一度も動いていない。
(注意……そらさなきゃ……)
 里玖を見つつも横目で雪奈を見る金髪の少年。
 雪奈は立ち上がり、少年へ近づこうとするが痛みがあるせいで動くことができず、うずくまってしまう。
「雪奈っ!!」
 うずくまる雪奈のもとへかけていく里玖。
 少年は何もせず、ただ見つめる。
 何の苦も無く、地割れを超えてきた里玖が雪奈のもとへたどり着いたとき、少年はそっと目を細めた。
「!」
 一瞬、闇の気配が漂ったかと思うと、ピシリと小さな音が二人の足元で聞こえるや否や、地面の隙間から影が顔をだし、やがて膨らみを持って二人を蔽(おお)いこんでしまった。
 少年は二人を蔽いこんだ闇のとばりを見て、目をさらに細める。
 一方、閉じ込められた二人は何も見えない中、手探りで互いを探していた。
 いや、里玖が雪奈を探しだし、彼女の手を握る。
「雪奈、大丈夫か!?」
「だ…だめって…いった…のに……」
「今出してやるから、待ってろ」
 そういって、里玖は空いている手を広げ、今いる空間から脱出するために闇の魔力を発動させようとする。
「っ……だめ、やめて……」
 力を感じ取り、握られた手に力を込める。
 しかし里玖は雪奈のためと力を発動させるが、相手の力が上かはたまた2重に包まれているのか、結界のように蔽う影を取り払うことはできなかった。
(破れない、ならばっ)
 力を強め、脱出を試みる里玖に雪奈は握る力を強めるが意味をなさない。
 彼女のたちの世界での《闇》は精神を蝕み、命の灯火を吹き消すもの。
 里玖はその力に耐えうる精神力と、力を保持するが故に命の危険に晒されたことがあったため、雪奈はどうにかしてもその力だけは使ってほしくなかったのだ。
「……ぇ」
「今出してやるかなら」
「…めて…やめて……だめ……だめーーー!」
 か細い声からやがて強く、雪奈が叫ぶと彼女の身体が光に包まれる。
 それに驚いた里玖はそれに驚き力の施行をやめ、やがては影のとばりが破れ始める。
 外で成り行きを見ていた少年はふと感じた力に影のとばりを見る。
 そこから漏れ出し始める光に気づき、やがて破り出た強い光の眩しさに己の腕で光を遮るようにかざす。
 やがて光が収まり少年が視界を広げると、何もなかったかのように里玖と雪奈がいた。
 呼び出した際に魔力を消耗し、今まで受けていたダメージに加えて、あの光でさらに魔力を消耗したのだろう。
 雪奈の息は荒く、立つことすらままならない状態まで来ていた。
 里玖は少年に憎しみを込めて睨みつける。
 少年は何も言わず、不敵に笑うだけ。
 そんな少年に里玖は一層怒りをあらわにし、剣を構える。
「しぶとい奴らだ。おとなしく二人揃って消えるがいい」
「させるかぁ!!」
 少年の前に闇の玉が、里玖が地を蹴り剣を振り上げようとしたその時、

『そこまで!』

 低く太い声が響き渡り、それぞれの動きが止まる。
 少年は声の正体を知るとそれに恨みがましい視線を送り、雪奈はその声のほうをみて驚いたような声を上げる。
 そこにいたのは、山吹色の髪と褐色の肌を持つ――
「オリジン…さま…?!」
 精霊王オリジンの姿があった。
 マントを翻しながら王は娘同前の召喚士の前に立つ。
「…ずいぶんと遅い登場なのだな、王よ」
「犯した過ちを対処するのも判断の1つとし、見させてもらっていた。異世界より参られし者よ、このたびの非礼、召喚士雪奈に変わり、お詫び申し上げる。ここは我れの顔に免じて、退いてはくれぬだろうか」
「我は呼び出されただけ。無理矢理に引き込まれ、対価なしに還れと申すか」
「確かに主の言う通り…しかし、消すとなれば黙ってる者もいない……だが、娘はもとより貴公との契約を望んではいない。故にその怒り、沈めては頂けぬだろうか」
「静めろと言われて、静まるものか」
「ふむ……ならばまずはその闇を消していただきたい。里玖、お前もその剣を収めるんだ」
「だがこいつは!」
「収めるんだ」
 王は少年と里玖に互いに出しているものを収めるようにいう。
 渋々ながらに闇の玉を消した少年に対し、里玖は雪奈を傷つけたものとして少年を許せず、収めようとしない。
 だが王は里玖の言葉を一蹴し、もう一度収めるようにいう。
 しぶしぶ、里玖は剣を収め、雪奈を支えることにした。
「さて、雪奈。いくつか問いたいのだが……その傷では答えるのもつらいだろう。ウンディーネ、雪奈に回復を」
 そう王が言い空を仰ぐと、きらきらとした光が雪奈に降り注ぎ、少しばかりだが彼女の身体についた傷がふさがっていく。
「さて、雪奈。己が何をしたのか、わかっているな?」
「はい、オリジン様」
 雪奈の声は先ほどよりも力があり、真っ直ぐに王を見ている。
「ならば、まず我れとの契約はこの先数年禁ずる。次に明日までにその傷の手当とある程度癒すこと。翌日より1週間、人に会うことを禁ずる。2度とこのような事態が起きぬよう、己を磨きなおせ」
「わかりました、オリジン様」
 王からの命令に、雪奈は頭を下げて受け入れる反面、里玖は当然のごとくそれに待ったをかけた。
「待て、どうして雪奈にそんな命令をするんだ! 悪いのは……」
「……雪奈、今回のことは告げたのか?」
「いえ……伝えたらついてくるかと思いまして……」
「なるほど。では、あとで伝えること。それと里玖、お前は2週間、雪奈と会うことを禁ずる」
「なっ!?」
 王からの命令に里玖は驚く。理由は、聞かずとも王が話した。
「何も聞いていないから仕方ないが、お前は雪奈の邪魔をした」
「俺は邪魔なんて……!」
「いや、お前はしたんだ。雪奈から聞けば分かる。さて、主よ。これで2人にはそれぞれの罰を課した。納得いただけるだろうか」
 主と呼ばれた少年の表情は良いものではなかったが、ふぅとため息をついていた。
「……若造のはよくわからんが、まぁいいだろう。我がおらずとも娘には過保護な精霊(もの)達とその若造がいるようだからな」
「恩情、感謝いたす。里玖、雪奈を送りなさい。その後、すぐに退散することだ」
「なぜだ」
「光の精霊が高速でそちらに行くぞ」
「っ……わかった。雪奈、立てるか?」
 王の言葉に言葉を詰まらせる里玖だが、雪奈に声をかけて立たせる。
 よろめきはあるも、先ほどの回復魔法があったおかげで立ち上がることができ、王に頭を下げて彼らはその場を後にした。
「………王よ」
「なんだ、主よ」
「若造に課したものはなんだ。まったくもって意味が分からん」
「主も知っておろう。あの二人が恋人同士であることを。四六時中、共にいるのだ。罰には十分効果的であろう」
「……次に、光の精霊はどれだけ過保護なのだ」
「ほかの精霊(もの)に押さえつけられているほどの雪奈狂。主との戦いですら押さえつけられていた、といえば分っていただけるだろうか」
「……なるほどな」
 少年からの質問に淡々と答える王。
 若干、里玖の質問に力がこもっていた気がしなくもないが。
 答えを聞いた少年は、呆れた表情をする。
「どうやら、この世界の精霊はみな主人に甘いようだな」
「………そうだな、そうかもしれん。だが、彼らがそうしたいと思えるのは雪奈(あのこ)だけのようだ」
「ほぉ……それはぬしの娘だからか?」
 皮肉を込めた笑みを浮かべる主に王はふっと笑い、“それはわからん”と言う。
「それはそうと、主よ。我が娘はどうだ。なかなかに良い娘であろう」
「……まぁ、悪くはない。また相見えることがあるならば……役目の名ぐらいは名乗ってもよかろう」
「〈闇の主〉とな?」
「名は体を表す。早々に真名を教えてなるものか」
「ふむ……それもそうだ」
 不機嫌オーラを出す主に王は淡々とそういう。
 しばしの沈黙。
 それを破るように動いたのは金色の主だった。
「王よ、2度とこんなこと、あってはくれぬな」
「あぁ、もちろんだとも。本当に申し訳なかった」
 口端をわずかながらに上げてマントを翻し、するりと姿を消す闇の主。
 どこか既視感を感じながらも頭をたらし、主を見送る。
(不機嫌そうな様子だったが、案外楽しんでたようだな)
 いつかに合ったやりとりを思い出し、眼差しがあの時とまるで同じだと思いながら王も姿を消す。
 残ったのは、でこぼことなった大地とひび割れ崩れてしまった魔方陣だけだった。

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